TETRA'S MATH

数学と数学教育

鈴木健『なめらかな社会とその敵』に出てくる数式を細かく読み解いていく(5)/p.76〜78

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)の第4章を読んでいます。PICSYのシミュレータも見つけたことなので、具体的な数値でも考えていきたいと思っていますが、まずは、本に載っている文字式による証明の内容を追ってみたいと思います。

 PICSYにおける「取引」では、bさんがsさんから財を買うとすると、bさんはsさんに(通常貨幣だったら「お金」にあたるところの)評価を与えるので、bさん自身の評価は減り、bさんからsさんへの評価は増えます。この増減分をαとすると、時間(t+1)におけるbからbへの評価、bからsへの評価は、次のように表せます。

 (4.13)(4.14)

 すでに書いたように、2人だけの間の取引が行われて、行列の中の数値が2つ変わっただけでも、貢献度ベクトル(=固有ベクトル)は変わってしまいます。また、ふつうの貨幣制度のように、「だれが買うときも300円」というような意味で定価をつけることは、PICSYでは適切ではありません。

 PICSYでは貢献度が購買力に転化されるという基本原理をもっているので、定価は、売り手の購買力を同じだけ上昇させる値であるのが妥当ということになります。買い手が誰でも、売り手の購買力アップの量に変化がないような、そんな定価を考えなくてはなりません。ということで、PICSYでは次のδが定価と考えられます。

 (4.15)

 つまり、時間(t+1)における売り手sさんの貢献度は、取引のあとで、時間tにおける貢献度よりもδだけアップしているよ、と。そういうδが定価だよ、と。

 一方、上の(4.13)(4.14)でみたように、買い手側のbさんからみれば、αだけsさんに支払う(評価する)ことになります。では、αとσの関係はどうなるのか? というわけで、δとαの間の近似的な関係式は、買い手と売り手の間に強い取引関係がない場合、以下のようになるとして、次の式が示されています。

 (4.16)

 「買い手と売り手の間に強い取引関係がない」というのがいまいちよくわからないのですが、ものすごく大きな額でやりとりをしないということでしょうか? ひとまずおいといて、証明をがんばって追ってみます。

 まず、「強いループが存在しないものとする。そのためのbへの正味流入量(自己ループのEbbの効果は取り除くものとする)は不変である」として、次のような式が示されているので、私が自分の理解で勝手に説明を加えてみました。


(4.17)

 そして、式(4.7)()で示したとおり、流入量は流出量と等しいので、

 (4.18)

となります。言葉で書けば、「正味流入量+自分から自分への流入量」(すなわち流入量の合計)は、「もとあった量」(すなわち流出量)と等しい、という感じでしょうか。個人的には、ここでもまだEやcの右肩にtをつけておいてもらったほうがわかりやすいのですが・・・。それだったら、次の式が理解しやすくなるのです。

 (4.19)

 つまり、(4.18)の式は時間tにおけるものとみなして、これを時間(t+1)におきかえると、 

 (tamami)

となるから、(4.13)を代入して、

 (tamami)

というふうに。これから先は、もうtは省略する発想でいいのかな? 

 長くなったので、ひとまずここまで。


(つづく)

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そういえば PICSY demo があるじゃないか!

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)の第4章を読んでいます。具体的な数値で考えたいなぁ……と思いながらデータをもとめて前のページをめくっていたら、そういえば PICSY demo があるじゃないかと気づきました。

 これは、2002年に情報処理振興機構IPAの未踏ソフトウェア創造事業に採択されたプロジェクトで、その資金をもとに開発されたデモソフトなのだそうです。いまもweb上で見られるのかな?と思って検索したら、PICSYのサイトを発見!
http://www.picsy.org/

 シミュレータもあります。まだ使いこなせていないけれど、きっとこれからお世話になることでしょう。というわけで、ひとまずリンクまで。

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鈴木健『なめらかな社会とその敵』に出てくる数式を細かく読み解いていく(4)/p.75〜76

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)のp.73〜76、「自然回収」のうちの「自己評価法」に関わる数式を細かく読み解いているところです。

 では、実際に本に示されている証明をみていきます。著者の鈴木健さんはまず、N×Nの場合の評価行列を、次のように示しておられます。

 (4.11)

 思うにこれは、対角成分以外の成分を、対角成分の形にそろえようとしたのでしょう。つまり、対角成分で「1」になっているところに「0」を入れる発想で、(1−γ)E=E−γE=E+γ(0−E)というふうに。

 そして、貢献度ベクトルに変化はないことの証明は、次のようになっています。

 (4.12)

 たぶん、次のような思考の流れかな?と推測しています(あくまでも推測)。





 いずれにせよ、「自己評価法」において、時間(t+1)の貢献度ベクトルは、時間tの貢献度ベクトルと同じになることがわかりました。よかったよかった。


(つづく)
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先に自分で考えた証明を書いてみる。

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)のp.73〜76、「自然回収」のうちの「自己評価法」に関わる数式を細かく読み解いているところです。

 で、自己評価法において、ステップを重ねても貢献度ベクトル(固有ベクトル)に変化はないことの証明についてみていこうとしているのですが、証明の内容は追えるものの、自分で考えたものではない流れをさも自分が考えたかのように語るのはなかなか難しいので、まずは、正しいかどうかはわからないけれど(内容としても書き方としても)、途中から枝分かれして自分で考えた証明を書いてみたいと思います。

 3×3行列の場合、時間(t+1)における評価行列は、次のように表せました。



 各成分をみてみると、左上から右下に並ぶ対角成分と、そのほかの成分の形が異なっているので、このままでは扱いにくいです。なので、対角成分を次のように変形してみます。ここから枝分かれします。



 こうすることで、(1−γ)Eの部分が他の成分と同じ形になります。そして、対角成分にだけγを加えるということは、単位ベクトル



のγ倍を加えればいいということだから、評価行列を、行列の記号だけで式に表せます。



 このEは行列です(なので太字で、右下に数字や文字がありません)。行列のまま式に表せるということは、3×3の場合に限らず、一般のN×Nの場合にも同じことがいえそうです。あとは、



を利用して、



とすれば、時間(t+1)における貢献度ベクトル(=固有ベクトル)もcバーとなって、変化しないことが証明できるような気がするのですが・・・ どこか間違っているでしょうか? あるいは、根本的に何か間違っているでしょうか?? 私は、本に書いてある証明よりもこちらのほうがストレートでわかりやすかったのですが……。間違いに気づいたら、また訂正したいと思います。


(つづく)

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鈴木健『なめらかな社会とその敵』に出てくる数式を細かく読み解いていく(3)/p.73〜74

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)のp.73〜75、「自然回収」のうちの「自己評価法」に関わる数式を細かく読み解いていきます。なお、(本文中)や(4.8)というふうにかっこ書きや番号がないものは、私が自分で考えるために加えた数式です。

 まず、自己評価法の前の予算制約の話のなかで出てくる、本文中p.73の次の数式 

 (本文中)

について。Eは評価行列、bは買い手、sは売り手、tは時間(ステップ数)、αは財の対価を表しています。bによるsへの評価は、時間(t+1)のときに、時間tのときよりもαだけ増加しているよ、と。そうなると、水槽のアナロジーで水槽から送り出される水の比率の和は1になるのと同じように、ある1人の人からの評価の和は1にならなくてはいけないので、sさんへの評価がαだけ増えることになると、sさん以外のメンバーへの評価が合計でαだけ減ることになります。それゆえ、bさんがsさんからいきなり多額の購入を行うと、αの値が大きくなり、αを補填しているsさん以外のダメージが大きくなる、というわけです。

 で、前回、「自然回収」のうちの「自己評価法」について具体的にみていきましたが、これは、

 (4.8)

というふうに、自分で自分に(bからbへ)、Βだけ評価を与えるということになります。Βというのは自然回収量です。たとえば、1割回収するなら、それぞれへの評価はもとの0.9倍になり、25%回収するなら、それぞれへの評価はもとの75%になるので、自然回収率をγとすると、b以外の他のメンバーの評価は、もとの(1−γ)倍になります。

 (4.9)

 そうしてみんなから回収したものを、自分のところにおいておくのが自己回収法です。時間tの段階では、自分以外に合計(1−Ebb)だけ評価を与えていたのだから、それの比率γ分だけ回収されることになると、自分のところの評価は、前回よりもγ(1−Ebb)だけ増えて、

 (4.10)

になります。Ebbが大きければ大きいほど、つまり予算制約がすでに多ければ多いほど、1−Ebbは小さくなるので、γ(1−Ebb)も小さくなり、新しく増える予算制約は小さくなります。鈴木健さんは、「このようにして,貯蓄をしすぎずに利用を促進するインセンティブが組み込まれ,貨幣へのフェティシズムを回避させるようになっている」と書かれていますが、よく考えたもんだなぁと思うと同時に、“インセンティブ”についてはあいかわらず保留の私。

 で、とにもかくにも問題は、こんなことをしても本当に貢献度ベクトル=固有ベクトルは変わらないのか?ということ。その証明が載っているのですが、証明の内容の前に、証明されていることそのものに、なんだか感動してしまいました。数学って便利だー

 もう一度、水槽のアナロジーの具体例をながめておきます。回収率1割のときには、ポンプの能力の行列は次のように変化しました。
 


 1割ではなく、回収率をγとすると、次のようになります。 



 メンバーが3人の場合について、一般的に書くと下のようになります。E11、E22、E33はゼロではなくて、すでに予算制約分があると考えると、もとの数値にγ(1−E)がプラスされた値となります↓



 このことを、時間tを使って表すと、次のようにまとめられます。


 
(つづく)
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PICSY動的モデルに向けて、「予算制約」と「自然回収」の意味

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)を読んでいます。前々回と前回で、第4章オープニングの「静的モデル」に出てくる数式を細かく見ていきました。これから先は、これらを動的モデルに変えていく作業が続きます。

 最初に考えるのは「予算制約」というものです。ある買い手が、ある売り手と大きな取引をした場合、買い手は売り手への評価を大幅に増加することになるので、それを補填しているほかの人たちのダメージが大きくなってしまうのをどうするか、という話。

 そのために、1日に1回とか1時間に1回とかの頻度で、「自然回収」を行おうというのです。どういうことかというと、すべてのメンバーに対して、「すべての評価を少しずつ減らす操作」をするものです。そうやって蓄積したものを、予算制約としようというわけですが、このあたりについてはあとでゆっくり考えることとして、「自然回収」の具体的方法についてみていきたいと思います。

 「自然回収」の方法としては、「自己評価法」「中央銀行法」「仮想中央銀行法」が紹介されています。
 
 「自己評価法」は、自分のところを蓄積の場とするような発想になっています。水槽のアナロジーでは、水槽の中の水は1回の操作ですべて他に移るので、もとの水で自分のところに残るものはゼロでした。だからポンプの能力を示す行列において対角要素は全部0になっているわけですが、ここを「空き箱」として利用しようというのが「自己評価法」だと私は理解しました。実際には、自分で自分を評価するわけじゃない(自分から何かを買うわけじゃない)んだけど、この場所に何かを入れるということは、自分の中に水を残すということであり、結果的に自分で自分に水を入れるということになるので、「自己評価法」という名前がついているんだろう、と。

 となると、「中央銀行法」というのは、自分の空き箱ではなくて、どこかに自然回収のための場所を作っておくんだな、と推測できます(特定のアクターと称されています)。実際にこれは、取引をするメンバーがN人の場合、評価行列をN×N行列ではなく、(N+1)×(N+1)行列で考えるもののようです。で、その特定のアクターが「仮想化」されて、行列のなかで実体をもたなくなるのが、「仮想中央銀行法」ということになりそうです。

 まずは、「自己評価法」についてみていきます。ひきつづき水槽のアナロジーで考えると、水槽1からは、本来、水槽2に0.6、水槽3に0.4だけ水が送られましたが、それぞれ比率の1割引きにして、水槽0.6×(1−0.1)=0.54、0.4×(1−0.1)=0.36にすると、あわせて0.9になるので、和が1になるには0.1足りなくなります。その0.1を自分のところに入れてやることにします。他の水槽についても同じように考えると、行列は次のように変化します。



 果たしてこんなことをしても固有値に変化はないのでしょうか!? とりあえず固有値を求めてみたら、λ=1が存在することがわかりました。なので、ポンプで水を移しても変化がないような水の量c1、c2、c3が存在します。このうち、水槽1に流入する水の量の関係(下の緑の部分)に注目すると次のように式を変形することができます。



 これは、もとの行列の場合と同じ式であり、他の水槽についても同じことがいえるので、どうやら貢献度ベクトル=固有ベクトルに変化はなさそうです。このことを一般的に考えていくために、またまた数式を読み解いていきます。

(つづく)

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転置行列にしても固有値は変わらないことの確認

 鈴木健『なめからな社会とその敵』に出てくる数式を細かく読み解いていく(1)/p69,70において、ポンプの能力の行列を作るときに、1つの水槽の能力を縦方向に並べた行列と、横方向に並べた行列の2つを示しました。こういうふうに形を変えても固有値は変わらないことを確認していなかったので、一度確かめておくことにします。





 このように、縦方向と横方向を入れ替えた行列のことを、お互いの「転置行列」というようです。

 で、3×3行列の場合について、転置行列にしても固有値が変わらないことを文字式の計算で確かめてみることにします。なお、もとの対角要素(左上から右下のラインに並ぶ数値)はa、e、iだったとして、a−λ=A、e−λ=E、i−λ=Iというふうに、λをひいたあとの数値をA、E、Iで表した形で考えます。


 一致しました。よかったです。

 サラスの方法だと、数値を斜めにとってい部分がちょうど入れ替わっていることから、固有値に変化がないことがより簡単にわかるかもしれませんね。

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鈴木健『なめからな社会とその敵』に出てくる数式を細かく読み解いていく(2)/p.70の続きとp.72

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)のp.69〜72に出てくる数式を細かく読み解いているところです。

 いま、(4.1)から(4.4)まで読みました。このあとは、次のような式が示されています。

 (4.5)

 これは、「通常の線形代数では,cバー(tamami注:λ=1のときの固有ベクトルを構成する各々の数値と思われる)はユークリッドノルムが1になるように正規化する」という説明のもと示されている式です。

 「通常ではこうするよ」ということで、一応示されているのだと思います。ここでは特に理解必須でもなさそう(>やはり必須でした)。ノルムというのは、平たくいえばベクトルの「長さ」にあたるものだと思いますが、水槽のアナロジーでは水の量の組を考えており、(40L,35L,38L)の“長さ”って何よ?という素朴な疑問が生じます。

 そこで、いったん矢線としてのベクトルを考えると、たとえば座標平面上で、原点と点(3,4)を結ぶ線分の長さは、直角三角形の斜辺として考えると、三平方の定理を使って、√(3^2+4^2)=√25=5と求められます。また、(40,35,38)についても、座標空間のなかの点と考えれば、直方体の対角線の長さとして、√(40^2+35^2+38^2)=√4269というふうに求められます。

 このへんまでは「長さ」ですが、数値が4以上になった場合どう考えるの?と首を傾げてしまうわけであり。でも、数値が4以上になった場合も、とりあえずこれまでと同じように考えて、それぞれの数値の(絶対値の)2乗をたして平方根をとったものを、そのベクトルの“長さのようなもの”にしよう、というのがノルムの考え方なんだろうと現時点での私は理解しています。

 そして、すでに見てきたように、固有ベクトルはたくさんあるので、そのうち“長さ”が1であるものに代表させようというのが、「正規化」の意味なのかな?と思っています。なので、上の式は、「固有ベクトルのなかの数値すべて(c1,c2,c3,……,cN)について2乗して加えたものが1になるようにしてあります」ということを言っているのでしょう(2乗して加えたものが1ならば、その正の平方根も1になり、“長さのようなもの”も1になるので)。

 で、PICSYのモデルでは、貢献度ベクトルcは次のように定義されます(μは定数)。

 (4.6)

 cバーは固有ベクトル(のうち正規化されたもの)だから、それの定数倍も固有ベクトルであり、それはどういう定数倍かというと、ベクトルの要素の和がNになるように調整したもの、ということなのでしょう。水槽が5つあったら、水の量の和が5になるように、人が100人いたら、貢献度の和が100になるように。ちなみに本では、この次で水槽のアナロジーが出てきます。

 ほんでもって、p.57の表にもどると、ここでA、B、C、D、E5人の取引を考えたときの、「評価行列」と「貢献度」の表が示されています。ほんとうはF、G、H、…とまだ続くのでしょうが、それは「…」で示されています。ちなみに、計算サイトで計算しようとしたところ、私のパソコンの能力のせいなのか、タイムアウトで強制終了となってしまいました。なお、「貢献度」の和は4.99444なので、確かに約5になっています。
 
 このあと水槽のアナロジーの説明を経て、p.72に以下の式が示されています。水槽iに入ってくる水の量と出ていく水の量が、すべての水槽で一致することを表したものです。

 (4.7)

 EijやEjiは行列のなかの数値(ポンプの能力)を表しており、ciやcjは水槽の水の量です。(行列やベクトルじゃなくてそれを構成している数値なので問題はないのですが、この順序だとベクトルを右からかけているように思えますよね。そうなると固有ベクトルの式は、Ec=λcのほうがわかりやすいんだけどな)

 ほんでもって、私が水槽のアナロジーを考えたときに水槽Cの水の量をcとしたため、貢献度cと記号が重なって紛らわしいので、水槽の記号を1、2、3にかえ、ポンプの能力をE、水の量をcで表すことにすると、たとえば水槽2から水槽3への水の移動の比率はE23、水槽2の水の量はc2と表せます。なので、水槽2から水槽3に移る水の量は、E23×C2となります。

 そうなると、水槽2に入ってくる水の量は、E12×c1+E22×c2+E32×c3となり、これは E■2×c■ の■に1、2、3と順に入れていって計算してたした結果です。また、水槽2から出ていく水の量は、E21×c2+E22×c2+E23×c2となり、これは E2■×c2 の■に1、2、3と順に入れていって計算してたした結果です。

 貢献度というのはいわゆる固有ベクトルにあたるものなので、操作の前後で水の量に変化はないことになり、たとえば40L入っていたら、40L出ていって、また40L入ってくるようなものなので、「入ってくる水の量=出ていく水の量=もとの水の量」という式が成り立つことになります。それがすべての水槽で成り立つよということを、上記の式は言っているのだと思います。

 以上が、「第4章 PICSYのモデル」のなかの、「4.1 一般的な評価システムとしての静的モデル」に出てくる数式です。すでに書いているように、これを貨幣システムに応用するためには、動的なモデルに組み替えていかねばならないのでした。

(つづく)

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鈴木健『なめからな社会とその敵』に出てくる数式を細かく読み解いていく(1)/p69,70

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)の第3章〜第5章を読むために、固有ベクトルやマルコフ過程についてざっとみていきました。また、PICSYのおおよそのイメージもつかめてきました。これから先は、本のなかに出てくる数式を細かく読み解いていきながら、PICSYの理解を深めていきたいと思います。

 それで、まずはあの補足のことについて考えなくてはなりません。p.71では、「マルコフ過程としての静的モデル」として、水槽のアナロジーが出てくるのですが、ここで私は、本の図をもとにして、以下のような具体的な数値を考えました。   



 矢印は水の移動を表しており、数値はその比率です。比率なので、1つの水槽から出る矢印の数値の和は1になっています。そして、もとの水の量を縦1列のベクトルとして行列の右からかけるような式を考えたので、1つの水槽のポンプの能力を示す数値は縦1列に並び、その和が1になるようになっていました↓



 縦1列のベクトルを3×1行列の計算とみなすと、上記の計算は、(3×3行列)×(3×1行列)=(3×1行列)の形をしていることになります。

 これに対し、もとの水の量を横1列のベクトルと考えて、その右から行列をかければ、次のように(1×3行列)×(3×3行列)=(1×3行列)の形の計算となり、各水槽のポンプの能力の数値は行列のなかで横に並びます。


 
 したがって、こちらのほうでは行列の横に並ぶ数値の和が1となることになります。実際、本のp.70では、

(4.3)

と書いてあるので、行列Eを右からかけることにしてあるのでしょう。なお、ヤマガタのような記号(ハットというのかな?)がついているcは固有ベクトルなのですが、その次ではヤマガタではなく横棒(バー)になっていて、さらにPICSYのモデルにおける貢献度ベクトルではただのcになっているようです。最初は意味がよくわからなかったのですが、同じ固有ベクトルでも種類が違うことを示すために、書き分けているのかな?と推測しています(この推測が正しいかどうかはまったく不明)。
 
 なので、λ=1の場合は、

(4.4)

となります。また、ポンプの能力を示す数値はいつでも0以上なので、



となります。このときのcは太字ではないので、ベクトルではなく、固有ベクトルのなかの1つ1つの数値(40Lとか35Lとか)のことで、右下の i は、水を送り出す水槽の記号を示しています。つまり、for all i というのは、すべての水を送り出す水槽において(AもBもCも)、ポンプの能力の数値は0以上だよ、と読めばいいのだと思います。

 で、話が前後しますが、その前のp.69で、

(4.1)(4.2)

という式が出てきますが、上の式は、行列のなかのすべての要素、つまり、どの水槽のどのポンプの能力の数値も0以上だということを言っており、下の式は、1つの水槽から水を移動させるポンプの能力の数値の和は1だということを言っているのだと思います。行列のなかの数値は、水槽 i から 水槽 j へ移る水の量を表す数値なので、水槽が5つあって、それぞれに1、2、3、4、5と番号がついているとすると、E25は水槽2から水槽5に水を移すポンプの能力の数値であり、水槽2のポンプの能力について、E21+E22+E23+E24+E25=1が成り立つよ、と。他の水槽についても同じことがいえるので、for all i ということになろうかと思います。

 長くなったのでひとまずここまで。

(つづく)

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「伝播投資貨幣PICSY」は、「マルコフ過程」とどうつながるのか。

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)の第3章〜第5章を読むために、数学的な下準備をしているところです。



 「伝播投資貨幣PICSY」の理解のために、「固有ベクトル」をおさらいするにおいて、お互いに水を送りあう3つの水槽のことを考えましたが、Aに40L、Bに35L、Cに38Lの水が入っていれば、何度ポンプで水を送っても、水槽の水の量は変わらないことを確認しました。

 PICSYにおいては、水槽の数が取引に参加する人の数で、お互いの取引がポンプでの水の移動にあたり、取引の内容をまとめたものが行列ということになります。この行列には「評価行列」という名称があたえられています。そして、この行列の固有ベクトルを「貢献度ベクトル」と呼んでいますが、これはいわば取引を続けて状態が安定したときのその人のお金にあたるかと思います。

 「あとがき」によると、著者の鈴木健さんは、2000年の夏にシャワーを浴びているときに、マルコフ過程を使えば価値が伝播する貨幣がつくれるかもしれないと突然ひらめいたそうです。価値がつながっていくような貨幣のイメージが以前からなんとなくあって、大学時代に確率過程論で学んだマルコフ課程とつながったのだとか。

 つまり、価値が伝播するところの貨幣であるPICSYのモデルでの「貢献度ベクトル」は、マルコフ過程での定常状態として解釈することができます。しかし、貨幣のモデルを考えるとき、実際の取引ではその内容(つまり行列)のなかみが刻々と変化するので、行列を固定して考えることはできません。したがって、マルコフ過程はPICSYの「静的なモデル」ということになり、これを動的モデルにかえていくために、概念が追加されていくのでした。

 ここでようやく第3章の前半(p.56のあたり)にもどります。価値が伝播するというのは、こういうことです。たとえばBさがAさんから、ある財をお金0.2で買ったとする。そしてCさんがBさんから、ある財をお金0.3で買ったとする。Bさんが売った財にはAさんから買った財の価値が含まれているので、この2つの取引の結果、Aさんには0.2×0.3=0.06だけ価値が伝播する、というわけです。

 これらの説明のなかでサプライチェーンという言葉が使われていますが、サプライチェーンというのは、製品が消費者に届くまでのプロセスのことのようです。私たちが手にする製品は、原材料を調達するところから加工をへて配送・販売するまで、実にさまざまなプロセスを経ますが、その連鎖がサプライチェーンということになるかと思います。それこそ商品開発や営業やらなんやらかんやらを含めると、1つの製品のなかにものすごい経過が含まれているということになるのでしょう。そのようなプロセスのなかで価値が伝播していく貨幣、それがPICSYなのだろうと私は理解しました。

 いちばんわかりやすかったのは、イチローが食べたラーメンの例です。たとえば1年に10億円の収入がある野球選手のイチローが高校時代に毎日あるお店でラーメンを食べていたとすると、イチローの体はそのラーメンによってつくられたといえるので、ラーメンはイチローへの現物投資だと考えられ、お店のオーナーは投資のリターンとして100万円くらいは期待できるかもしれない、という例。まさに投資ですね。

 これを実現するためには、イチローは、イチロー株を自ら発行し、その株券でラーメンを購入すればいいということになります。すべての人が自分株を発行し、取引のときにその自分株で支払うことによって互いに持ち合うようなコミュニティがあったとき、イチロー株の株価は、複雑な株の持ち合いネットワークから自動的に計算できるようになる、と。

 イチローが稼ぐようになれば株価は上がり、稼ぎが減れば株価は下がります。つまり、イチローにラーメン屋が提供したラーメンは、500円に相当するPICSYの価値より上がったり下がったりすることになり、ラーメン屋に材料を提供している業者の株価も、それに連動し変化していき、以下同様にサプライチェーンを遡って効果が伝播していく、というわけです。

 そんなふうにして、そのときの取引がそのときで終わらず、その先で起こったことで価値が変わっていくとしたら、その場かぎりの損得でものを考えないようになるかもしれませんね。鈴木健さんの言葉を借りれば、「インセンティブが発生する」ということになるでしょうか。

 ラーメン屋さんは、自分のところのラーメンを食べたうちのだれかが有名な野球選手になるかもしれないから、手を抜かずによいものをつくろうと思うようになる。また、過剰な薬を投与することによってお金を稼いでいた医者は、患者はよくならずにベッドに寝たままなので収入がなく、伝播する価値がなくて医者の収入にも反映されないから、医者は患者の将来を考えて治療をしようと思うようになる。

 かつて、「インセンティブという言葉ってなんかやだな……」と思っていた私は、ここで出てくるインセンティブという言葉にも最初微かな違和感を感じました。ちょっと悲しくなる感じというか。そういうシステムがなくても、提供する商品に手を抜いてほしくないし、医者には患者のことを考えてほしいわけであり。でも、世の中、そうはいかないというか、そうなっていないのでしょうね。

 で、あれこれ考えるにつけ、手を抜いたほうが稼げるような状況、患者のことを考える医者のほうが収入が少ないという状況はやっぱりおかしいし、そのおかしさを具体的に現実的に修正する(かもしれない)貨幣システムというのは、やはり魅力的だなぁと感じました。思うに、その場でもうかればそれでいいという考え方の人にこそ、このシステムの影響力は大きかったりして!? とにもかくにも、本のなかの言葉でいえば、「経済活動の中での貢献の度合いに応じて購買力を与えられる」という意味での「公正さの向上」は確かに期待できるかもしれません。

 インセンティブはともかく、私が面白いなぁと思ったのは、ここですでに「境界を消す」というイメージが出てきていることです。ラーメンに関していえば、たとえば途中で使うお鍋とか、火力のためのガスの供給とか、もっともっといろんなことがたくさん関わっているでしょうし、それらが全部つながっていて価値が伝播・連動していくとしたら、すべてのことが「ひとごとではない」という状況になるでしょう。

 価値が伝播する貨幣システムにおいては、世の中のお金の流れが、すべて「自分のこと」になり、問題の外に出ることはできなくなりそうです。世の中のどんなこともひとごとではないということが、リアルに感じられるようになる、そんな社会になるかもしれない。

 つまり、伝播投資貨幣システムPICSYとは、「貨幣の価値がフローから成り立っていることを知覚できる」貨幣システムであり、「財とサービスの効果は次の財やサービスに埋め込まれ、財の価値も次の財に埋め込まれる」という発想をもとにしているもののようです。


(つづく)

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