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圏論を用いた動的な比喩理解TINT

 西郷甲矢人さんが布山美慕さんという方といっしょに、圏論を使った比喩理解の研究をされているらしいということについては、なんだかんだでこれまで接触はあった。『圏論の道案内』にもちらっと書いてあるし、あちらこちらの註でも見かけた記憶がある。

 が、「さすがに比喩はないよなー」と思って、のぞこうとしなかった。「意識」はまだギリギリありかもしれないけれど、「比喩」はないよな、と。

 それが一転して読む気になったのは、「不定自然変換」に大変興味を持ったからなのだ。例の事情によりリンクはしないけれど、「不定自然変換」で検索すれば、以下の文献が見つけられると思う。12の番号はこちらでつけたもの。


1.布山美慕、西郷甲矢人(2019)
「不定自然変換理論の構築:圏論を用いた動的な比喩理解の記述」

2.池田駿介、高橋達二、布山美慕、西郷甲矢人(2019)
「不定自然変換理論による比喩理解モデリングの計算論的実装へ向けて」


 このなかにTINTというものが出てくる。theory of indeterminate natural transformation の略称、つまり「不定自然変換理論」なるもの。心の中で、もうティントと呼んでしまっているのだが、そう呼んでいいのかどうかはわからない。

 比喩という言葉から、言語や文学方向の話なのかな?と漠然と思っていたのだけれど、どうやら認知科学方面の話であるらしい。

 1の「1.はじめに」で「潜在意味解析や Word embedding を用いて意味の創出をある種のベクトル演算に近似する方法に比べて」という記述があるのだけれど、そういう方法なんかもあるのだなぁと思ったりした。

 その1では三好達治の詩が取り上げられていたりして、楽しく読んだ(なお、『土』の紹介のところで蟻と蝶が入れ替わってしまっているように思うのだが)。この詩の題名は「土」なんだよなぁとしみじみと思った。

 2ではさらに研究が進んでいることがうかがえる。

 しかし、いずれにせよこれはまだ「入口」なのだと思う。この段階の話であれば、あえて圏論を使う必要は感じられない。むしろ言葉と想像力にまかせたほうが、事態をより深くつかめるように感じた。何かあるとしたらこの先なのだ、きっと。いまはまだ、「提案」なのだ。

 その提案を、少しのぞいてみようと思う。

 まず、イメージの圏Cを用意する。対象はイメージ(言語的なものに限らない)であり、それらの想起関係を射とする。イメージの意味はコスライス圏で表現する。コスライス圏は、固定した対象Aからの射を対象とするものなので、いわばひとつのイメージAから想起されるイメージへの想起関係を集めたものとなり、これをイメージの意味とするのはなるほどと思える。

 ただ、「想起関係」そのものを射とすると、すべての射が同じものと感じられないこともない。あるイメージからあるイメージへの射をひとつにしぼっているのは、いまはとりあえずそうしているわけであり、そういう意味でのひとつではなく、「想起関係」という意味で同じなのではないかということ。なので、「AからBが想起される」という文章そのものを射と考えるとしっくりくるかな、と思った。
(2020年8月6日追記:射についてのこの言い方は何かヘンだな……と自分で感じているのですが、記録としてそのまま残しておきます)

 そして、比喩について。比喩は「AはBのようだ」という形をしているものだけれど、このたび「喩辞」と「被喩辞」という用語をはじめて知った。たとえに使われたBが 喩辞、たとえられたAが 被喩辞 のことだと私は理解している。これらAとBのイメージの意味の対応づけは、関手で表現される。

 比喩理解の過程は自然変換の探索で表現され、どの動的な過程をモデル化するためにイメージの想起確率が導入されて圏が不定化されることになる。確率の導入はまだ研究段階にあるらしく、計算などについては具体的には触れられていない。

 面白いのは、設定されたルールをもとにして、射が残ったり、消えたりすること。これらは「励起」「緩和」と呼ばれており、4つのルールが設定されている。
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