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数学と数学教育
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学習指導要領「解説」で、二重数直線はどのように出てくるか。

 小学校学習指導要領解説[算数編](文部科学省著/東洋館出版社/2008年8月)を読んでいます。

 なお、「まえがき」などはありませんが、同じ内容のものを文科省の次のページから読むことができます。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syokaisetsu/

 引用部分のページ数は、前者について「冊子p.○○」、後者について「PDFファイルp.○○」と示します。



 というわけで、学習指導要領解説において、二重数直線がどのように出てくるかを見ていきたいと思います。

 二重数直線というのは、2本の数直線を並べて描いたもので、比例数直線、複線図などとよばれることもあるようです。どれがもっとも一般的な名称かはわからないのですが、とりあえず私は二重数直線とよんでいます。

 かけ算の順序固定にはさほど敏感に反応しなかった私なのですが、この二重数直線と出会ったときに、「算数の教科書が何かへんな方向に動いている」と感じるようになりました。ちなみに出会いは、娘が小学校4年生の頃、「テープ図がわからない」と言ってきて、算数の教科書(学校図書)を見たときです。

 その後、教科書センターで他の会社について確認したり、検索して関連文献をさがしたりするうちに、どうやらこの二重数直線というのは、いまの算数教科書界でメジャー(あるいはスタンダード)であると認識するにいたりました。

 そして、指導要領解説に二重数直線があることも確認できました。しかし、半分納得、半分疑問符の状態です。確かに出てきてはいるので、どの会社もこれを使うことは不思議ではありませんが、解説における二重数直線の存在感よりも、教科書における二重数直線の存在感のほうが大きい気がするのです(そして、会社によって微妙に違いがある)。

 ということから推測するに、二重数直線の使用自体は指導要領解説がスタンダードにしているけれど、教科書会社は解説だけを頼りに二重数直線を使ってはいるわけではないのではないか、ということ。それぞれの会社がそれぞれ編集するわけなので、あたりまえといえばあたりまえですが、それをより詳しく調べたいのだったら、それぞれの会社の教科書を個別に検討する必要がありそうです。

 とりあえず、学習指導要領解説において、二重数直線がどこでどう出てくるかを確認していきます。

 まず、第5学年の「A 数と計算」の小数の乗法にて。
 整数の乗法については,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かを求める」,「何倍かに当たる大きさを求める」などの場合に用いる。
 (中略)
 例えば,1メートルの長さが80円の布を2メートル買ったときの代金は,80×2という式で表せる。同じように,「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」という場合,布の長さが2.5倍になっているので,代金も2.5倍になるということから,80×2.5という式で表せる。
 こうしたことから,整数や小数の乗法の意味は,Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,Aを「割合に当たる大きさ」とするとき,B×P=Aと表せる。
 数直線を用いることによって,乗数Pが1より小さい場合,積は被乗数Bより小さくなることも説明できる。
(冊子p.143〜144/算数(2)PDFファイルp.166)

 この記述の後半右側に、簡単な二重数直線が2つ示されています。1<Pの場合とP<1の場合です。つまり、その場合わけを示すための図なのでしょうが、注目したいのは、これらがどちらも「割合」の二重数直線になっていることです。

 二重数直線の上の線の右端には「(量)」、下の線の右端には「(割合)」と書かれてあり、割合の1に対応するのがBであるとき、割合のPに対応するのがB×Pになることを示した図です。上記リンク先からすぐに見られるので、よろしかったら直接本物を見てみてください。

 私は、「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金」という発想は、「単位量あたりの大きさ」をもとにしていると理解しています。つまり、長さと価格の関係を使ったかけ算です。しかし、それを二重数直線で表すときには、「割合」を使っている。

 これは本来であればシンプルに、「80円の2.5倍は何円ですか」ときけばすむ問題のように感じられます。80×2.5を学習したいのなら、「80mの2.5倍は何mですか」のほうがより適切かもしれません。1メートルをかませることでわかりやすくなっているようにも見えますが、結局、「布の長さが2.5倍になっているので」ということを根拠にしていることから、「倍」を使っていることにかわりはありません。

 なお、異種の二量の割合と同種の二量の割合で二重数直線がどう違ってくるかということについては、「単位量あたりの大きさ」と「割合」の違い (2)で書きました。

 遠山啓らが「1あたり量」を重んじたのは、80円/mという量を、1つの量として認めたからです。これを認めたときに、2.5mは2.5mという長さでいられます。しかし、この布の問題を「割合」の問題としてとらえると、2.5はメートルのつかないただの数になります。つまり、2つの数量の関係を表す小数です。したがって、遠山啓は2/3という分数も、何かを3つにわけた分の2つ分という二量の関係としての数ではなく、2/3m^2などの1つの量として扱おうとしました(と、私は認識しています)。

 ツイッターでメタメタさんからうかがった話によると()、かけ算が「倍」から「1つ分の数」をもとにする計算方式に変わったのは、1980年版の学校図書の教科書が最初であり、その発想は遠山啓からきているようなのです。おそらくその発想自体は、算数の教科書の中で連綿と続いているのしょう。しかし、上記のことからわかるように、指導要領解説においては、問題は「異種の二量の関係」を使っているのに、それを「同種の二量の関係」をもとに解釈して「割合の三用法」につなげる、ということをしています。

 さらに見ていくと、第5学年の〔算数的活動〕のなかでも、小数の計算について二重数直線が出てきます。こちらも割合の線分図になっています。(冊子p.146/算数(2)PDFファイルp.169)

 そしてもうひとつ、第6学年の〔算数的活動〕のなかで、分数の計算について二重数直線が出てきます。しかしこちらの図では、上の数直線が「棒の重さ(kg)」、下の数直線が「棒の長さ(m)」になっていて、「単位量当たりの大きさ」(異種の二量の関係)の図そのものになっているのです。また、棒のような円柱形を模した、もう少し具体的な図も示されています。(冊子p.167/算数(2)PDFファイルp.195)

 という内容を見て、またまたあれこれ妄想してしまった私。まず思ったことは、学習指導要領「解説」の中に出てくる、言葉の式 で書いたように、ここで急に罫囲みが出てくるので、小数のところと分数のところとでは担当執筆者(あるいは作成協力者)が違うのかもしれない、ということ。(だとしても普通は統一すると思うのですが)

 それから、小数の乗法を「(同種の二量の)割合」として示せば、ここで割合の三用法を示せるなぁ…ということ。どう考えても、指導要領解説の「百分率」のなかでこれが出てこなくて、小数の乗法で出てくるというのは不自然だと思うのです。このあたりは、旧指導要領解説と比較すると面白いかもしれないので、どなたかよろしくです〜(^^)/

 さらに、こうすることで、「同種の二量の割合」と「異種の二量の割合」の、どちらにも二重数直線が適用できることが示せるなぁ、とも思いました。あるいは、同種であろうが異種であろうが、割合であれば同じ図で表せるということを積極的に受け入れているとみなすこともできるかもしれません。ちなみに、確か啓林館の教科書では、「単位量あたりの大きさ(異種の二量の割合)」で二重数直線を使っていなかったと記憶しています。なお、学校図書はバリバリに使っています。

 以上は、私の推測というか妄想なのですが、とにもかくにも、指導要領解説に二重数直線が出てきていることはわかりました。

 そして、たとえば教育出版は、このような指導要領(および解説)の内容をもとにして、線分図・数直線の指導の系統を考えたのでしょう。
https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/view.rbz?pnp=100&pnp=109&pnp=237&nd=237&ik=1&cd=1934

(つづく)
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