1の12乗根を自分ひとりで作れちゃう数たち/巡回群と生成元
結城浩『数学ガール/ガロア理論』を参考書にしながら、ドゥルーズ『差異と反復』第四章のごく一部を読むための準備をしています。『数学ガール/ガロア理論』についてはネタばれ注意です。
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さて、もう少し1の原始12乗根について考えていきます。円分多項式に触れないままでいるので、ζ12をどう言葉でいったらいいものか(最初の12乗根とでも言いいたいけど最初って何よ?という問題があり)困ってしまっておりますが、とりあえずさらっと先に進みます。
今回は1の12乗根たち、つまりζ12、ζ12^2、ζ12^3、……のべき乗はどういうことになるかについて考えます。たとえばζ12^3は、さらに2乗することでζ12^6になれます。また、3乗することでζ12^9になることもできます。そして、4乗したときにζ12^12=1になり、あとは何度かけても同じ数をたどることしかできません。だから、何乗してもζ12^5と同じ数にはなれない。
一方、ζ12^5はといえば、2乗すればζ12^10になり、3乗すればζ12^15となって、これはζ12^3と同じ数です。また、4乗すればζ12^20つまりζ12^8になれます。実は、ζ12^5は、そのべき乗で、ζ12からζ12^12のどの数にもなれちゃうのです。
円分多項式に一切ふれないままの状態で恐縮ですが、複素平面の単位円を12等分した点をとり、ζ12^3とζ12^5のべき乗を順に点でつないでいくと、こんな感じになるかと思います↓(ド・モアブルの定理より、2乗することは偏角を2倍にすることであり、3乗することは偏角を3倍にすることなので)
同じことをζ12でやると、12個の点を順に結んでいくことになるので、正十二角形になりますよね。ζ12^7の場合は、ζ12^5の線を逆にたどるような感じで、同じ星型の図形ができそうですし、ζ12^11の場合はζ12の線を逆にたどって、やっぱり正十二角形になりそうです。
だからこそ、12乗しないと1になれないわけであり、それゆえ1の原始12乗根なのだ、とも言えるのでしょう。結局、原始12乗根になれる数は、ζ12^kのkの部分が12と互いに素である場合だ、と言えそうです。
ということは、ζ12、ζ12^5、ζ12^7、ζ12^11 たちは、自分ひとりで1の12乗根を全部作れてしまう数たち、ということになりはしないだろうか。つまり、1の12乗根を生成できる、と。
ほんでもって、久しぶりにカードの置き換えを考えてみますれば、{[123],[231],[312]}という群は、元は3つあるけれど、実はこれは「左端の1枚を右端にもってくる」という動きを繰り返しているだけであり、いってみれば[231]ひとつあれば成り立つ群です。
というふうに、ぐるぐるまわしていくだけでできる群を、巡回群といい、まわしていく動きを表す元のことを生成元というようです。逆に言えば、何かひとつの動きの“もと”(生成元)を繰り返すことでできる群が巡回群だということになるかと思います。
カードの並べ替えの場合は、操作を続けることを演算と考えて、そのうち積と呼ぶようにしたので、繰り返しの操作はべき乗で表されます。すなわち、{[123],[231],[312]}は,{[231],[231]^2,[231]^3}である、と(要素の順番はずれますが)。
ちなみに、3枚のうちの2枚を入れ替える{[123],[132]}も、[132]を2回やればもとにもどるので、{[132],[132]^2}という巡回群になろうかと思います。
ん? ってことは……。原始12乗根たちも自分ひとりを何乗かすることで、1の12乗根を全部作れてしまうのだから、生成元になれるんじゃなかろうか。
この場合は、そのまま複素数の積を演算と考えると、12乗根たちは群{ζ12,ζ12^2,ζ12^3,ζ12^4,ζ12^5,ζ12^6,ζ12^7,ζ12^8,ζ12^9,ζ12^10,ζ12^11,ζ12^12}をつくり、そのすべての元を、どれかひとつの原始12乗根のべき乗で表すことができるということを、先ほど確かめたのでした。
ζ12を使えばそのまんまだし、{ζ12^5,(ζ12^5)^2,(ζ12^5)^3,…,(ζ12^5)^12}でもOK(要素の順番はかわるけど)。これすなわち巡回群ではなかろうか。
というわけで、ζ12、ζ12^5、ζ12^7、ζ12^11は、1の12乗根を要素とする巡回群の生成元になれちゃうようなのです。すごいじゃん。
(つづく)