根を入れ替えると結果が変わる式をあえて作ってみる
結城浩『数学ガール/ガロア理論』を参考書にしながら、ドゥルーズ『差異と反復』第四章のごく一部を読むための準備をしています。『数学ガール/ガロア理論』についてはネタばれ注意です。
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3次方程式の場合、ラグランジュ・リゾルベントから、どうやって解の公式にもっていくのかにおいて、解と係数の関係に少しだけ触れました。2次方程式ax^2+bx+c=0の解をα、βとしたとき、α+β=−b/a、αβ=c/a となる、あの式のことです。この式の左辺をみてみると、αとβの立場は同じであり、お互いを入れ替えても結果は変わらない式になっています。こういう式のことを「対称式」というようです。
たとえば、x^2−x−6=0 の解は、
左辺を因数分解すると (x+2)(x−3)=0となることから、
x=−2,3であり、
α=−2、β=3とすれば、α+β=−2+3=1、
α=3、β=−2としても、α+β=3−2=1となるわけで、
どちらも−b/a=−(−1)/1=1になります。
αβ=c/aについても同じことが言えます。
これがもし、α+2βであったなら、
α=−2、β=3のときには、−2+2×3=4、
α=3、β=−2のときには、3+2×(−2)=−1となって、
値が変わってしまいます。
ちなみに、α−βについても同じことが言えますが、2乗した(α−β)^2 の場合は、(α+β)^2−4αβと変形できることから対称式になれます。
なお、登場する解が2つ(αとβ)の場合、α+βとαβを基本対称式というようです。基本対称式を組み合わせれば別の対称式が作れるし、別の式が基本対称式の組み合わせで表されるのであれば、それは対称式というわけです。αとβとγの3つだったら、α+β+γ、αβ+αγ+βγ、αβγが基本対称式です。
さて、そんな対称式ですが、今回はあえて、α+2βのように、αとβを入れ替えてしまうと値が変わってしまう式に焦点をあてたいと思います。ある多項式の根を使って、根の中身を入れ替えると結果が変わってしまう有理式(加減乗除する式)を作ろうというわけです。その有理式は、根を入れ替えると結果が変わるのだから、根の違いの情報を消さない式といえます。
たとえば、f(x)=x^3−2x という式に対し、根を入れ替えると結果がすべて異なるような有理式として、α+2β+4γを採用することにします。これをVとします。つまり、V=α+2β+4γということです。V=α+2β+3γにすると、同じ結果になってしまう場合があるので、γの係数は4にしました。
x^3−2x=x(x^2−2)=x(x−√2)(x+√2)より、f(x)の根は0、√2、−√2です。これをα、β、γのどの位置におくかを、これまで使ってきた3次の対称群の書き方で示していき、Vの添え字の番号で区別します。たとえば[123]ならば、0、√2、−√2の順、[213]ならば、√2、0、−√2の順という具合に。そうすると、それぞれのVの結果は次のようになります。
[123] V1=0+2√2−4√2=−2√2
[132] V2=0−2√2+4√2=2√2
[213] V3=√2+0−4√2=−3√2
[231] V4=√2−2√2+0=−√2
[312] V5=−√2+0+4√2=3√2
[321] V6=−√2+2√2+0=√2
次に、Vのうちのどれか1つを根にもつような有理数体上の最小多項式fV(x)を考えます。たとえばV1=−2√2を根とする最小多項式はx^2−8なので、fV(x)=x^2−8です。これは、fV(x)=(x−V1)(x−V2)と考えて作ったものといえます。すなわち、fV(x)の根はV1とV2である、と。
さらに、解α、β、γをVで表すことを考えます。
V1=−2√2と、α=0,β=√2、γ=−√2より、
α=0、β=−V/2、γ=V/2
このVから根を出してくる操作を関数ととらえ、φと添え字の数字を使って表すと、
φ1(x)=0、
φ2(x)=−x/2、
φ3(x)=x/2
となります。
xにV1の値を入れると、当然のことながらもとのα、β、γの値が出てくるわけですが、fv(x)のもうひとつの根であるV2の値を入れると、同じ組み合わせの数値が出てきて、なおかつ、出てくる順番が異なります。
V1を入れたとき→(0,√2,−√2)
V2を入れたとき→(0,−√2,√2)
V1を入れたときは対称群の元のうちの[123]に対応しているし、V2を入れたときは対称群の元のうちの[132]に対応しています。このあたりのことが、どうやら「ガロア群」と関わってくるらしいのです。
というわけで、すでに「第10章 ガロア理論」に突入しております。まだまだおさえておかなければいけない概念でおさえていないものがたくさんあるのですが、「えいっ」と突入してしまいました。折にふれ必要に応じてさかのぼって確認していきたいと思います。
(つづく)