TETRA'S MATH

数学と数学教育
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『数学教室』7月号・8月号、「掛け算・割り算の常識」(野崎昭弘)について

 以下のエントリで少し触れさせていただいた、『数学教室』(国土社)2013年7月号・8月号の「掛け算・割り算の常識」(野崎昭弘)の内容を、自分が興味のあるところをを中心に確認してきました。
Twitter経由で知った、くるぶし(読書猿)さんの分数についてのページ/「等分する分数」と「比に基づく分数」
「単位」を使って数の計算を学ぶときの、「単位」の意味

 先に全体的な印象を書いておくと、数教協の雑誌なのであたりまえのことではありますが、やっぱ野崎先生も数教協の先生だなぁ〜としみじみ感じました。私は野崎先生が好きなのでそのことで先生の印象はかわらないけど(^^)、諸手をあげて賛同するわけにはいかないというのが率直な感想です。

(ちなみに、かけ算の順序固定を批判しているという話も目にしていたのですが、私が予想していたよりもマイルドでした。これが批判たりうるのであれば、私のブログってば、かなりの“固定反対派”なのではなかろうか??)

 で、どのあたりが数教協っぽかったかというと、7月号では等分除・包含除のほか「かけわり図」が説明されていて、8月号では「割合測定器」が紹介されていたこと。「かけわり図」については、このような図を描くことができれば「掛け算か割り算か」の選択は簡単だ、というようなことが書いてありましたが、それでいいのかなぁ?>野崎先生。「割合測定器」というのは、ゴムひもでできた伸縮自在のものさしで、これと固定ものさしを組み合わせることにより、基準の長さ「1」が調節できるようになっています。いわば、どんな問題にもあわせて使えるリアル二重数直線という感じ。伸縮させる様子を目で見ることができるのが紙に描かれた図と異なる点ですが、ゴムひもってたぶん難しいよなぁ…と思ったとおり、やはりそれほど正確な測定はできないということを野崎先生も書かれていました。ちなみに、これがデカルトの乗算の話へとつながっていきます。

 で、「割合」は、大学生でもよくわかっていない人がいるだろうと思うのですが、野崎先生がいうには、昔、大学4年生のゼミに「割合測定器」を持ち込んで「割合」の説明をしてみたら、よくできる学生さんたちは興味をもっていろいろ操作しながら「これはわかりやすい」と言っていたけれど、肝心の「割合がわかっていない」学生さんたちは「バカにされた」と思うのか、さわってみようともしなかったとのこと。

 この現象(?)をうけて野崎先生いわく、どんなにいい教具にも「レディネス」(学習可能な身体的・知的年齢に達していること)のほかに、すなおにつきあうための「適齢期」があるようですね、と書かれていましたが、結局こういう教具というのは、「わかっている人にはわかり、わからない人にはわからない」ものだということがよくわかる一例だと私は感じました。つまり、わからない人にわからせるためのものではなく、すでにわかっている人が、自分がわかっていることを整理・表現するための道具なのではなかろうか、と思うわけであり。(で、適齢期っていつ? 大学時代に興味を持たなかった学生さんが、小学生のときなら興味をもったかというと、そうは思えない私)
〔関連エントリ〕
「公式」は“悪”で、「図式」は“善”か?(1)/数教協のシェーマ
「公式」は“悪”で、「図式」は“善”か?(2)/現在の教科書

 ほんでもって、7月号では「分数による割り算を整数による割り算に翻訳する」方法が書かれており、単位分数を使った計算方法が示されています。 

 たとえば、一歩の歩幅が60cmのとき、12km歩くには何歩あるくかというような問題を解くときに、「12km÷60cm」のままでは計算できないわけで、これは「12km÷0.0006km」または「1200000cm÷60cm」と計算することになり、単位が同じなので、そのまま数値を計算して、答えから単位を消していいことになります。

 これを分数の割り算に応用するために、例の「サンダ」(3分の1)、「ヨンダ」(4分の1)、「スーダ」(12分の1)が出てくるわけです。この単位を使うと、「2/3 ÷ 3/4 = 2サンダ÷3ヨンダ」となりますが、これでは先に進めないから、「8/12 ÷ 9/12 =8スーダ÷9スーダ=8÷9=8/9」というふうに単位をそろえて整数のわり算に翻訳してしまうという発想です。そしてこのあと、分数のわり算はわる数の分母と分子を入れかえてかけ算にすればいいことが文字式で示してあります。

 この考え方は、先に「2/3 ÷ 3/4」という計算式ありきですね。たとえば、「3/4メートルの長さが2/3グラムの針金があります。この針金の1メートルの重さは何グラムですか」という問題の場合、長さの単位とグラムの単位を別の単位にストレートにそろえるわけにはいきません。だから、共通単位でそろえる発想は、基本的には包含除にもとづいた考え方なのだと思います。

 そして8月号では、「割合測定器」をつかった掛け算・割り算が示されています。「3×2」の場合は、固定ものさしの「3」に割合測定器の「1」をあわせて、割合測定器の「2」に対応している固定ものさしの目盛りを読むという手続き。「6÷2」の場合は、固定ものさしの「6」に割合測定器の「2」をあわせて、割合測定器の「1」に対応している固定ものさしの目盛りを読むという具合。小数の割合にも応用できると書いてありましたが、分数の場合はどうすればいいのでしょうね? いちいちそれ専用の固定ものさしと割合測定器が必要なような…。

 とにもかくにも、これが「比に基づく乗除算」ということのようです。しかし、先ほども書いたように、ゴムひもの長さでは正確な測定はできないし、ゴムひもの伸び率に制限されるので、ギリシャ人の方法のほうがずっと広い範囲の掛け算・割り算に応用できるとして、(のちにデカルトによって完成された)デカルトの乗算が紹介されています。いわゆる相似形を利用した計算方法で、「長さ×長さ」が面積ではなく、長さで表されるところが、ギリシア時代にはなかった新しいところと書いてあります。

 このことについては、以下のエントリで亀井喜久男先生の論考を紹介させていただいています。なお、野崎先生が使っている図は逆L字型ではなく、1点Oから半直線を2本ひき、それに2本の平行線を加えて相似な三角形を作った図になっています。
「比的率」は外延量という考え方(11)/図形における比率から、「デカルト座標平面線分算」へ
亀井喜久男さんの微積分の論文URL

 というわけで、手元のメモをもとに、ざっと紹介させていただきました。


 思うに。研究するなら、やっぱり、「教え方」より「学び方」のほうがいいかも。

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