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数学と数学教育
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胃で投票する、胃が投票する

 『なめらかな社会とその敵』(鈴木健/勁草書房/2013)の「伝播投票委任システム」のところを読んでいます。委任がループする場合についても具体的に考えていきたかったのですが、目と頭がぐるぐるしてきたのでちょっとおいといて、先を読んでいくことにします。



 とにかく思うことは、鈴木健さんは確かに本気だな、ということ。これらのシステムを世の中に導入することを本気でリアルに考えながら、細かく具体的に検討していき、残っている課題点を示されています。

 その“本気さ”とあわせて、「え!そんなところまで考えているの!?」と、びっくりしている私。でも、昨今のもろもろの技術の進歩や世の中の動きと考えあわせると、それはけして突飛な発想ではなく、少なくとも技術的には数十年のうちには可能なことかもしれません。しかし、技術的には数十年のうちに可能かもしれないけれど、人間社会がそれを受け入れるか、あるいは真面目に検討したうえで拒否するには、やはりあと100年以上かかるような気がします。

 まず、p.156に、「7.1.8 線形投票と集合知」という項目があり、鈴木さんはここで私たちの投票に対する先入観をさらに崩そうとします。分人民主主義では1人がもっている1票を分割して、0.2票と0.8票というように、分割して投票できましたが、そのことについてはさすがにだいぶ慣れてきました。しかし鈴木さんはここでとまらないのです。この場合、たとえ分割してもスカラー値を投票する方法であり、スカラー値ではない投票も可能だとして例を示されるのです。

 たとえば、税制について、所得税の累進課税の度合いをどのようにするのが一番いいかを決めたいとき。普通の投票だったら、2つあるいは3つのプランの中から選択して、スカラー値を投票するという方法になるけれど、横軸に所得、縦軸に税率をとったグラフを考えて、何らかのタッチインターフェイス上で指を動かして、その運動の奇跡を投票することもできるというのです。つまり、手書きグラフによる投票。

 「そんなことまで考えているんだ!」とここでびっくりするのはまだ早かった。その次に「非線形投票」の可能性が示され、「胃の集合知」と進み、「無意識の生体情報を用いて投票ができるようになる可能性」が示されます。まず例に出されているのはブレインマシンインターフェイスを用いて、脳の情報を直接使って投票する方法。

だが脳に限らず,たとえば胃にセンサーをつけて投票させるということも可能だ。戦争するかどうかといったある種の議題については,脳で投票させるよりも意外と適切な結果がでるかもしれない。

 (p.157)

 これにはさすがに驚きました。だけど、「そんな投票ってアリ!?」と思った直後、いま私たちが実際に行っている「頭で(?)考えて判断して投票用紙に書き込んで1人1票を投じる選挙」の妥当性はいったいどこにあるのか、と問い直していくと、確かに投票に対する先入観が揺らいでいきます。

 さらに間をとばしてp.163に進むと、「秘密投票の歴史と思想」という項目があり、筆記投票、発声投票、喝采選挙のこと、思想家たちがどの投票制度を評価したのかなどについて書かれてあって、結局、いま私たちがやっている投票方法も、作られてきたもの、そして国家なりなんなりに採用されてきたもの、そうしてあたりまえのこととしてやってきた方法なんだなぁと思えてきます。そういえば、挙手をもって……とか、拍手をもって……という承認のしかたは、いまでもありますよね。そもそも選挙権の考え方からして、ひと昔前は、いまと違っていたわけであり。それいえば選挙そのものだって……。

 もちろん、小選挙区や比例代表制、1票の格差といった議論は盛んに行われていると思いますが、それ以前の根本的な投票制度の改革について、いままでこんなところから考えたことがありませんでした。いや、びっくり。

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