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数学と数学教育
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遠山啓の「外延量・内包量と微分積分」(1979年)を読んでいく (5)/内包量と微分積分

 遠山啓著作集<数学教育論シリーズ6>『量とはなにか−供‖深仝砧漫θ分積分』(1981年/太郎次郎社)に収められている、「内包量・外延量と微分積分」(p.78〜91)という文章を読んでいます。



 遠山啓は、「微分というのは,まさに内包量です」と語っています。しかし、小学校での内包量が均等分布という条件のもとでの内包量であるのに対し、微分というのは、この条件のない状態の内包量である、と。

 たとえばコーヒーに砂糖を入れて、スプーンでかきまわさない状態だと、均等分布ではないので、このコーヒーは甘いとか甘くないとかの判断は、上のほうだけをなめたのではいえない。ではどうすればいいかというと、この部分の甘さはどうか、あるいはこのへんはどうかというふうに、各部分ごとに異なる内包量をださざるをえない。これが微分である、と。

 速度でいえば、等速度で動いていない自動車は、ひじょうにスピードをだしているときは速いけれど(同語反復!?)、徐行しているときは遅い。一様変化という条件があれば等速度だけれど、その条件がなければ、各瞬間、各瞬間の速さというものを考えざるをえない。

 すると、その部分、つまり、ひじょうに小さい空間で、そこにはいっている物質の量をわり算せざるをえない。なぜなら、各点ごとにみんなちがうから。だから、小学校のときの内包量は均等分布しているときのもの、高校での微分は、その条件がないときの内包量と考えてよい。でも、内包量であることに変わりはない。というふうに、遠山啓は語っているのでした。

 ここからしばらくは、自分の意見を書きます。

 小学校2年生のかけ算の学習は、同じ数のものがたくさんあるということの状況-----りんごが3こずつのったお皿が5皿あったり、おかしが6個ずつ入った箱が4箱あったり-----を設定するところから始める場合が多いと思いますが、こういうふうに、「同じ数のものがたくさんある」ことがかけ算を生じさせる状況であると考えることは、「量の理論」をはなれても自然なことだと思います。

(なので私は、そのような「たくさんある同じ数=1あたり量」に注目させてから式を立てる「1つ分の数×いくつ分」の順序に、かつては違和感をまったく感じていませんでした。いや、いまもほとんどありません。だから、かけ算の順序固定問題がこんなに盛り上がるまでは、どうして反対派がここまで目くじら立てるのかわからなかったのです。だけど、世の中にはこの順序にとことんこだわる人がいるらしいということがわかってきて、いろいろな事例を知り、指導書のびっくりするような記述をweb上で読み、確かにかなり妙なことになっているな・・・と思うようになったのでした。)

 そして、「量の理論」とつなげて考えてみた場合、まさに小2のかけ算における「1あたり量」は、「均等分布の内包量」といえます。整数の場合はもともと人為的な数値の場合が多いので(同じ数ずつ分ける、同じ数ずつ入っている等)、あまり意識することもないのですが、これが小数や分数になると、がぜん均等分布された内包量の意味あいが強くなってきます。こどものちかく「小数×小数」を、針金の長さと重さで学ぶ意味でも書きましたが、針金の長さと重さを使うことはあっても、大根やごぼうの長さと重さは題材に使うことはないと思うのです。

 つまり、かけ算の問題の題材は、大抵なんらかの比例関係を前提にしている。別の言い方をすれば、かけ算が使える場面には比例関係が生じる可能性がある。そうしてA×B=Cの形をしたかけ算の式がy=axという比例の式へと発展していき、これが小6〜中1の数量関係の学習の内容になっているのだと思います。

 遠山啓の文章にもどると、均等分布していない場合は、それぞれの小さな部分のなかだけでは均等分布になっていると考えてよいので、各部分の砂糖の濃さは、それぞれの部分に溶けている砂糖の量をその部分の容量でわればいい、場所によってちがってはいるが、それぞれの小さな部分の範囲内では、こんなふうにほぼ三用法が成り立つ、というふうに説明しています。そして全体の砂糖の量は、各部分の濃度に容量をかけるとわかる、というわけです。

 遠山啓は数値で具体例を示してはいませんが、食塩水でおおざっぱに考えてみると、たとえばコップのなかの食塩水300gを100gずつA、B、Cの3つの部分にわけ、順に濃度が2%、5%、8%だとすると、含まれている食塩の重さは(あえて“濃度に容量をかける”形で書くと)、A・・・0.02×100=2(g)、B・・・0.05×100=5(g)、C・・・0.08×100=8(g)となり、全体の食塩の量は2+5+8=15(g)です。つまり、「かけて、たす」。これが積分であり、いわゆる内積である、と。そして、内積というのは、たんに小学校や高校ばかりでなく、数学という学問全体を貫いている大きな柱の一つだとも言っています。

 微分というのはその反対なので、「ひいて、わる」。上着を先に来てコートを着たとき、コートを脱いでから上着を脱ぐように、「かけて、たす」の逆は「ひいて、わる」ということになる。「ひく」というのは部分化するということなので、全体をみるかわりに、その一部分だけに目をつけるということ。

 「だから,小学校の内包量をしっかりとやっておかないと,微分がわからない」と遠山啓。小学校の力で、すぐに高校微分を習ってもいい、とも。

小学校でも,内包量は微分積分へつながるのだということを頭にいれて,ていねいに教えたほうがいい。つまり,子どもが爛好廖璽鵑任きまわさないときはどうなるのか瓩伴遡笋靴討たら,爐修譴蓮い泙世澆鵑覆砲呂爐困しいけれど,高校にいって,微分積分というのをやると,よくわかる瓩氾えてやったら,子どもたちははやく高校生になりたいという期待をもつでしょう。

 (p.89)

(ある先生のわり算についての授業で、「この計算の証明は、いまはできないけど、中学にいったらできる」といったら、子どもたちははやく中学生になりたいといいだした、というエピソードも紹介されています。)

 「いまこうしておかないと、あとで困る、あとでこれができなくなる」というのはよくきく話ですが、だいたい数年単位の話ではないでしょうか。小2の学習の大切さの根拠を小3に求めたり、低学年の根拠を中学年・高学年、中学年の根拠を高学年に求めたり。もし、小2のかけ算の順序をとても大切にする先生がいて、「これができないと高校の微分積分でつまずきます」とまで言える先生がいたら、その先生は遠山啓の「量の理論」の影響を受けている可能性が高そうですね。でも、そういう先生、どのくらいいるだろうか・・・? 微分まで持ち出す先生って。逆のパターンもあるかもしれませんね。小2でかけ算の順序を固定して教えられると、伝票の書き方もわからない非常識な大人になる、と。

 とにもかくにも、当初はどうであったかわらないけれど、最晩年の遠山啓にとって、「内包量」は「量の理論」を貫く重要な概念であったようです。それが均等分布であるときは比例定数であり、その原型はかけ算の「1あたり量」であると考えていいのではないか、と個人的には思っています。はっきりそうは書かれていませんが、少なくとも、「総量/容量=内包量(1あたり量)」という式は示されています。ほんとうはこの「1あたり量」を「単量」と言いたかったらしいし。

 この文章は遠山啓が直接書いたものではなく、講演速記なので(原稿チェックは本人がしたのだろうか?)、文章として書き起こしていたらまた少しちがった内容になっていたかもしれませんが、最晩年の考えを知る資料があってよかったなぁと思っています。
 
 なお、文章の最後では「わり算をすると,値が大きくなる」ということについて書かれてあります。その日の高校部会で、xというひじょうに小さな量で、yというひじょうに小さい量をわるというのがひじょうにむずかしい、という話が出たようで、そのことに関連して。これも、小学校でとくにていねいに教えておいたほうがいいだろう、と遠山啓は言っています。かけ算でも、たし算でも、ひき算でも、小さい量をあつかうときには小さい量にはならないが、わり算だけはべつである。小さい量を小さい量でわると、ばかに大きくなることがあることを、いろいろな実例でしっかりと把握させておいたほうがいいと思う、と。たとえば、コップのなかの食塩水は太平洋の海水よりもからいことがある、というのもひとつの例だとしていますが、ここでまた「内包量は感覚でとらえらえる」にもどるようです。
(が、y÷xのむずかしさは、そういう問題じゃないんじゃなかろうか?)

 あと、ノミの跳ぶ高さと身長の話や、アリがものを運ぶ力と体重の話などが、人間との比較で語られていて苦笑しました。教科書にのっていたカエルの跳ぶ距離と身長の話の原形がこんなところにあったぞ〜と(もちろん、偶然なのでしょうが)。こういうようなことを、いろんな例で体験させておいたほうがいい、そうしておかないと、将来、微分にいったときに困る・・・と遠山啓はいっています。こういう言い回しをきくと、「ぼのぼの」のアライグマくんを思い出すのでした>

 やはり遠山啓にとって、「わり算」は特別なものだったようです。森毅と意見がわかれたというのも、納得()。

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