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数学と数学教育
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「比的率」は外延量という考え方(9)/倍がつくる正比例関係

【「比的率」は外延量という考え方】

(1) 比的率とは何か
(2) 問題意識
(3) 「割合の三用法」の組み換え
(4) 国際単位系SIと「単位1」
(5) 「単位」の深みにはまる
(6) 割合のイメージ
(7) 比例の式のとらえ方
(8) 遠山啓の「水槽」について考える



(9) 倍がつくる正比例関係 

 これまではある程度の“貯金”で書いてきましたが、だんだんと現在進行形になっていきます。まだ整理がつかないままですが、考えたことをそのまま書いていこうと思います。

 さて、「単位あたり量がつくる正比例関係」と「倍がつくる正比例関係」の違いについては、このたび瀬山士郎『算数の目・数学のすがた』(日本評論社/1993)がきっかけで考えたことで書きましたが、もう一度、解きほぐしてみます。

 どういう話かというと、「単位あたり量がつくる正比例関係」と「倍がつくる正比例関係の違い」は、1次元のとき(1つのxと、1つのyの関係だけを考えるとき)にはあらわれてこない、xやyにあたるものが複数ある多次元のときにあらわれてくるという話です。

 先日、量の単位の次元の話をしたばかりなので、次元というとちょっと紛らわしいかもしれないですが、遠山啓が言っていたように()、多次元量を「ある物質もしくは物体の属性としての量」として考えると、私にとってはわかりやすいです。つまり、複数の属性について一度に考えようとするのが多次元量だ、と。

 素朴な例として、かつて、レストランの会計お菓子の材料の例をとりあげましたが、お菓子の材料のほうで再び考えてみます()。

 「クッキーを1枚作るのに、小麦粉が6g必要です。クッキーを20枚を作るのに、小麦粉は何g必要ですか」という問題を解くときには、6g/枚×20枚=120(g)という式ができます。これは、小2で学習するふつうのかけ算の式です。同様に、1枚あたり砂糖が2g、バターが4g必要だとすると、砂糖は2g/枚×20枚=40g、バターは4g/枚×20枚=80g必要だとわかります。これは、クッキーという1つの物体から、「小麦粉」「砂糖」「バター」という3つの属性(材料)を抜き出してきたと考えられます。

 さらに、マドレーヌもいっしょに作っちゃおうということで、マドレーヌ5個分の小麦粉、砂糖、バターの重さも求めることになりました。マドレーヌの場合、1個作るのに、前から順に13g、11g、12g必要なので、5個作るには、13g/個×5個=65g、11g/個×5個=55g、12g/個×5個=60gとなります。だから、クッキー20枚とマドレーヌ5個を作るのに必要な小麦粉、砂糖、バターの重さは、順に、120g+65g=185g、40g+55g=95g、80g+60g=140gとなります。以上の計算を、行列を使って書くと、次のようになります。



 これは、2つの物体からそれぞれ共通の3つの属性(材料)を取り出して、必要な材料の重さを求める式になっていますが、左側の縦3つに並んだ部分が実際に必要な材料の総量、右側のたて2つに並んだ部分が作ろうとしているお菓子の個数、そして、そのあいだにある3行2列に並んだ部分が、クッキーとマドレーヌをそれぞれひとつ作るのに材料が何g必要かをまとめた部分です。

 したがって、上記の式も、「総量=1あたり量×いくつ分」という形になっています。では、多次元量において帰一法はどうなるかというと、たとえばクッキー20枚を作るのに小麦粉が120g必要だったときに、1枚あたりに必要な小麦粉の量は、120g÷20枚=6g/枚 と求めることができます。砂糖、バターも同様に。だから、上の計算で、もし「1あたり量」がわからないときには、クッキーを1枚だけ作ったらどうなるのだ?ということを知るために、たてに並んだ(20 5)のかわりにたてに並んだ(1 0)をかけてやれば、左側の総量がそのまま(6 2 4)となり、1あたり量を求めることができるし、マドレーヌの場合は(0 1)をかければ求められます。なので、クッキーとマドレーヌのそれぞれの1あたり量をまとめて求めたいときは、(20 5)の代わりに単位行列をかけてあげれば、一度に求めて表現することができます。これが、拡張された帰一法ということになります。

 こうして、多次元量における「総量=1あたり量×いくつ分」のかけ算ができあがります。個数の組(ベクトル)をX、1あたり量の組(行列)をA、総量の組(ベクトル)をYと考えれば、Y=AXという正比例と同じ形の式ができるというわけです。つまりはこれが、「単位あたり量がつくる比例関係」(ちなみに、お菓子の材料のこの例は、瀬山先生が示されたものではありません)。

 一方、「倍がつくる比例関係」については、瀬山先生は1次元の場合についてゴムひもを伸ばすという例を出されており、2倍にのびたときにy=2xと表されるが、この場合の比例定数の2は2倍するという操作を表していて、時速のときのような内包量ではない、と書いておられます。
すなわち,距離と時間の正比例関係においては,比例定数aを中だちにして,時間と距離という異質の量の正比例関係が表現されています.ところが,ゴム紐をk倍に伸ばす正比例関係,y=kxにおいては,xもyも共にゴム紐の長さであって,両者は同質なものです.すなわち,1次元の正比例関係の記号表現,y=axはこのように異なる2種類の正比例を同じ記号で表しています。
(『数学の目・算数のすがた』p.108)。

 では、多次元量における倍操作はどうなるかというと、こういうことになるらしいのです(xが3種類の場合)。↓

     

 瀬山先生はこのことを、「スカラー倍としてその操作は最初から内臓されている」と表現しています。この形になると、むしろ矢線のほうがわかりやすいかな、と思いました。原点から点(2,3)に向かう矢線を、方向をそのままに長さだけ4倍にすると、原点から点(8,12)に向かう矢線になる、という考え方です。つまり、方向は変えずに、長さだけ変えるのがk倍するということだ、と。

 しかし、もう一度量にもどると、kが「同質な2量の関係」というならば、濃度のような「度的率」も、まさに、重さという「同質な2量の関係」です。だから、もしこれらを区別するならば、後者が「2つの物体の同質な量の比」(と遠山啓も言っていたと思う)であるのに対し、「倍」は「1つの物体の同質な2量の関係」と言うしかないのではないか、と思えてきます。
 
 もし、私のこの区別がアリだとした場合、どういうことになるんだろう…と考え込みました。「1つの物体の同質な2量の関係」とはいったいなんなのか? かろうじて思いついたのは、「状態変化」。すなわち、xが2倍、3倍、・・・になると、というときのあの「倍」です。これだったら、「最初から内臓されている」という言葉にもマッチするのではないかと思うわけであり。(となると、これをベクトルの「基底」と関連づければ話が整理されていくのではなかろうか・・・と思ったのですが、いまのところ整理がつかず)

 もしかすると、結局、「2つの量の組」さえあれば成り立つのが「倍」であり、「2つの量の組が2組、すなわち4つの数の組を考えて初めて“意味をもつ”のが内包量」ということになるのかもしれません。そういえば遠山啓は、変量のなかの2つの組として比を考えることについてもどこかで書いていた記憶があります。ということは、「倍」というのは、基本的に、比例関係を示すxとyの対応表の横方向についてしか言えないのではないだろうか。「xが2倍、3倍、・・・になると」というときのあの倍。

 ところがですね… そうなると、三角形の相似はどうなるんだ、という疑問がわいてくるのです。三角形ABC∽三角形DEFのとき、それぞれ1つの三角形の中の辺の比と、AB:DE=BC:EF=CA:FDであるところの「相似比」を、どう考えたらいいのか?と。

 ほんでもって、三角形ABCが辺の比を保ちながら大きさを変えて、三角形DEFになったと考えて、その瞬間の辺の比を考えているととらえれば、1つの三角形の中の辺の比が「比的率」、相似比が「倍」と言えないこともないなぁ、と思いました。三角形ABCに相似な三角形はたくさんありますが、三角形ABCとは別の三角形について考えるときは、別のことについて考えることだから。

 つまり、三角形ABCを1つだけのとまった状態で考えれば、お互いの辺の比は「比的率」となり、それはその場で外延量(辺BCの長さは、辺ABの長さの1.2倍というときの1.2倍)。しかし、相似である2つの三角形をならべたとき、先ほどの1.2倍は「三角形の大きさが変わっても保たれる」という意味で「内包量」と化し、大きさの違う2つの三角形の辺の比(たとえば相似比5:6)は、「倍」となる。三角形ABCを「単位」みたいにして考える感じです(念を押しますが、そういう区別が実在するかどうか、そういう考え方が正しいかどうかの話ではなく、そう考えたら何か見えるものがあるだろうか、どこでどう矛盾が生じるだろうか、ということを考えています)。

 しかし、「状態変化」で話をつけようとしたのも束の間、先ほどの「内臓されたスカラー倍」を、お菓子にもどって具体的に考えることにしてみたら、クッキーx1枚と、マドレーヌx2個と、チョコレートx3個が入ったお菓子の詰め合わせを1セットとしたとき、kセット分のクッキーの枚数、マドレーヌの個数、チョコレートの個数を求めるような計算のように見えるなぁ、と考えたのです。そうしたら、クッキー20枚とマドレーヌ5個の場合、こんなふうに見えてきちゃって・・・



 さらには、こんなふうにも見えてきちゃって・・・



 「3」や「3セット」や「20」や「20枚」は、うしろからかけても、そしてかっこでくくってもいいと思うのですが、とりあえずベクトルの前に、かっこなしでおいてみました。そうすると結局、「スカラー倍=いくつ分」というふうに見えてきちゃって、結局、やっぱり、(1あたり量)×(いくつ分)と、(もとにする量)×(倍)って同じなんじゃないかという気がしてきちゃったのです。私はどこかで何かをすりかえているだろうか・・・

 もし、「単位」を内包量をみなすと、いわゆるベクトルの基底も内包量といえそうな気がしてきて、これを発展させたものが「(その問題限定の)1あたり量」ととらえられば、「いくつ分=スカラー倍」といってもよさそうな気がしてきたりして…

 さらに、正比例から始まる「森ダイアグラム」の意味・4/線型代数のイメージ(その2)の後半で示した、森毅の「乗法の総括」をつきあわせてみますれば・・・

 b円/kg×akg=c円 → (m/n行列)×(n/1行列)=(m/1行列)

 b円×a=c円 →  (m/1行列)×(1/1行列)=(m/1行列)

 「単位量あたりの大きさがつくる比例関係」と「倍がつくる比例関係」とでは、最終的に、行列の形にしたときに、「n」の部分が違ってくるようなのです。このnはどこから出てくるんだろう?と悩んだのですが、かろうじて思いつくのは、スカラーは単独の量(数)でしか存在しないもの、akgやb円のような外延量(いまは価格も外延量扱い)は複数あるときは量の組でベクトル、b円/kgのような内包量はその複数の量に対する単位あたり量の表みたいなものなので行列、と解釈してみました。がしかし、こう解釈すると、akgにあたる外延量を1種類だけ考えているときにはn=1となり、上記の2つの式の区別はつかないというか、逆に、行列の目でみれば、まったく同じ、ということになりはしないだろうか・・・などとつらつら考えているところでございます。ちなみに、大きく勘違いしている可能性大。

 森先生のこの式変形の意味がまだよくわかっていないし、「どちらも,ディメンジョンになっているところが,うまくいっとるではないか」という言葉の意味もさっぱり理解できないままです()。そもそも、行列の式を森先生は分数のように書かれているけれど、m×n行列と書くほうが一般的ですよね。でも、これもディメンジョンなのかな… 

 完全に頭がこんがらがったので、保留にして、次は複比例のことについて考えます。過去のエントリを訂正しなくちゃいけない状況なのです〜


(つづく) 
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