TETRA'S MATH

数学と数学教育
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“比”はなぜ“理”なのか/有「理」数の意味

 かつて、《 比 》 はなぜ 《 理 》 なのかということを、ピタゴラスを手がかりに考えようとしたことがありました。が、いまだもって、なぜ“比”は“理”なのかということがよくわからずにいます。いや、ある意味とてもよくわかるんだけど、それでいいのかどうかという疑問がぬぐえないないのです。(歴史的事実にもとづいたことなのか、単なる私のイメージなのか・・・)

 ratioという言葉があります。「比」を表す言葉で、エキサイト翻訳で「比」を訳してもらうと、英語でもフランス語でもratioとなります。英語っぽくもフランス語っぽくもない言葉ですが、どうやらもともとはラテン語のよう。そしてこれはロゴスという古典ギリシャ語を訳したという説あり。ちなみにratioは、「理性(reason)」の語源ともされているようです。

 「理」が「比」に近いものだということがよく感じられる言葉、あるいは考えたくなる言葉といえば、「有理数」です。英語でいえばrational number。エキサイト翻訳でrationalを訳してもらったら、「合理的」と出てきました。

 ちなみにweb上でこのようなQ&Aも見つけました↓
■「有理数」は誤訳?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/
qa/question_detail/q1040983690

 
 有理数というのは、ひとことでいえば分数で表すことのできる数ですが、有理数という名づけが意味をもつのは、有理数ではないもの、有理数と対になるものがあればこその話ですよね。その対になるものが無理数であり、これは√2や√3や円周率パイなどがあてはまります。学校教育ではおそらく中学校3年生で学習するのではないかと思います。

 「2/3」にしろ「11/28」にしろ「47/562」にしろ、分数で表される数は2つの整数の組み合わせで示すことができます。「2/3」は2と3、「11/28」は11と28、「47/562」は47と562によって。なるほど確かに、分数は比なのかもしれない。

 このように、2つの整数の“関係”としての分数が、いわゆる割合分数論争でいうところの「割合分数」であり、遠山啓はこれに強く反対しました。なぜならば、分数を「関係」として扱っていると、分数を使って何かしようとするときに、抽象的すぎてとても難しくなるから。したがって、分数を(単位をともなう)「量」、すなわち量の1つの抽象表現「量分数」として扱うというのが遠山啓の主張でした。現在の小学校の教科書も、基本的にはこの路線で分数の(計算の)学習をすすめていることと思います。

 それはそうとして、かつて『やわらか頭「江戸脳」をつくる和算ドリル』という本で(著者のおひとりは『かけ算には順序があるのか』の高橋誠さん=メタメタさんです^^)、日本のみが完全な小数文化圏の国であるという話をきいたときに、私は妙に納得しました。江戸時代にすでに分数はあったのだけれど、それは割合としての分数であり、たしたりひいたりすることのできる「独立した数」ではなかったようなのです。

 また、『数学的文化化』を読みながら思い出した小数文化圏のことの訳者註からも、そのことがうかがえます。つまり、西欧では逆に分数の歴史が長く、小数は研究材料のような形で現われてきたらしいのです。

 なお、『数学的文化化』の話題のなかでリンクしたアメリカの各州共通基礎スタンダード(CCSS)()では、Grade3から“Number and Operations—Fractions”が別項目になっているというのが印象的でした(fractionというのは分数のこと)。

 分数から始まるのか、小数から始まるのか、どう発生してどう根付いてどう根付かなかったのか、どちらに重きをおくのか、どう扱うのかの“風土的”違いは、けっこう奥深いものがあるのではないかと感じています。もしかすると民族的違いもあるのかもしれませんが、「血」なのか「地」なのかその相互作用なのか、それとも「たまたま」なのか、そのreasonはよくわかりません。でも、歴史的、結果的に、そういう事実があるということは面白いです。

 なんていうのか、日本的なものは ratio をベースにしていないのではないか、根っこにratio(こういってよければ西欧的理性)はないのではないか?なんてことを思うわけなのです。それは悲しむことではなく、むしろちょっと微笑んでしまうようなことであり。

 ちなみに連続量から分数、小数が生まれる様子、その違いについては分数と互除法・01で書いています。
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