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数学と数学教育
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正比例から始まる「森ダイアグラム」の意味

 「森ダイアグラム」とは、1960年代または1970年年代頃、森毅が提示した下のような図式で、小学校から大学までの数学教育の理念的カリキュラムを考えるための1つの視座として出されたものです。↓

  

 言葉でいえば、正比例が微積分と線型代数にわかれて、それがまた多変数微積分として1つにまとまっていく様子を矢印で示したものといえます。まんなかのふたつは本来どちらが上でどちらが下でもいいのでしょう。
 

 今回、森ダイアグラムについて考えようと思い立ったあと、まず手元にある文献をのぞいてみようと私が手にしたのは、瀬山士郎『算数の目・数学のすがた』(日本評論社/1993)でした。瀬山士郎先生も数教協の関係者です。

 実は、ものすごく昔、私はこの本に対して批判的なことを書いたことがありました。瀬山先生は、算数と数学はひとつのものだというところから話を始め、「帰りの目」で小・中学校の数学をふりかえってみると、新しい数学の風景がみえてくるよ、という構えでこの本を書かれています(なので、想定読者は高校生以上なのでしょうね)。いま思えば批判のしかたがちょっとずれていたというか、「それをこの本に対して言われても困る」という面はあったかもしれませんが、上記のような構えのわかりやすさゆえ、「俯瞰する算数・数学教育」が嫌いな私にとっては、俎上に載せやすい本だったのです。

 あれから何度も何度も本を処分する機会があったのに、こうして手元に残っているということは、やはり残しておくべき1冊だと感じていたのでしょう。

 この本と、銀林浩『量の世界・構造主義的分析』(むぎ書房/1975)があれば、ある程度のところまでいけそうな気がしたのですが、ここはひとつ森先生自身の本も1冊手にしようじゃないかということで、『線型代数―生態と意味』を購入することになったしだい。

 銀林先生の本にすでに森ダイアグラムは出てきていますから、1980年発行の『線型代数』にはじめてダイアグラムが登場したということではないのだろうと思いますが、だとしても森先生が書いているのだから、ここに出てくるダイアグラムをとりあえず原型と考えてよいのでしょう。

 なお、遠山啓著作集『量とはなにか〈2〉』の増島高敬先生のあとがきでは、右上に向かう矢印が局所化、右下に向かう矢印が多次元化を表すという説明がありますが、とりあえず森毅『線型代数』のオープニングでその説明は見当たりません。

 森ダイアグラムの意味をおおまかにまとめると、次のようになります。



 正比例は小学校の高学年で出てきます。遠山啓の言葉をかりれば、すごろくのアガリのようなもの。そして中学校で負の数や文字式を学んだあと、再び正比例を学びます。再びというかちゃんとというか。正比例は小学校のアガリであり、中学校のスタートなのでしょう。そして一次関数へと進み、y=ax^2の形の関数まで学習します。そして高校で一般的な二次関数をはじめ、さまざまな関数について学び、微積分について学ぶことになるかと思います。

 文字式は、小学校でほんの少し出てくる場合があるかもしれませんが、本格的に学び始めるのは中学校で、一次方程式、二次方程式を学習します。そのあいだで連立方程式もやるので、ここで線型代数の一歩を踏み出しているといってもいいでしょうか。そして、高校以降で行列やベクトルを学ぶのでしょう。

 多変数微積分(ベクトル解析)は完全に大学の話になるかと思います。すべての子どもが正比例を学ぶのにひきかえ、こちらはほんの一部の人が関わるものですね。

 森毅は『線型代数―生態と意味』(1980年)のなかで、大学の教養課程では最近ではだいたい微積分と線型代数というのが相場になっているけれど、微積分にくらべて線型代数のほうは高校での蓄積が少ないので、学生のトッツキは悪い、というようなことを書いています。

 さて、正比例についてはこのブログでたくさん書いてきたので、まず微積分について。私は上記説明のなかにある dy=(df/dx)dx という式表現の意味が最初よくわからなかったのですが、次のページにあるグラフを見て、ああ、そういうことなのかと納得しました。

  

 つまり、曲線上の1点を原点とする座標軸をあらたに考えて、dx軸、dy軸を設定すると、接線はこの座標平面の原点を通るので、dyをY、dxをX、df/dxをAと考えれば、この接線の式はY=AXと表せて、正比例関数があらわれてきます。森毅の式表現に対するこの理解が正しいかどうかはわかりませんが、式の意味はともかく、曲線であらわされるような関数でも、局所的にみればそこに正比例関数があるよ、という意味での局所化なのだろうと思います。あるいは、刻々と変化する正比例関数をつなげていく・積み重ねていくことで、曲線であらわされるような関数をつくることができるよ、と。ただし、ここに出てくる変量はxとyだけで、入力xは1つにしぼったままです。

 次は線型代数です。

 森毅はまず、「バターケーキとカップケーキを作るのに必要な材料の重さ」という題材を使って、とてもわかりやすいイメージを示してくれています。わかりやすいのはいいんですが、バターケーキとカップケーキをお題にして、それぞれの頭の文字を添え字にするもんだから、その後、バカベクトルやバカ空間が出てくるんです、これ、森先生のシャレでしょうか⁉ そこはまあよしとしても、製品のバターケーキの添え字の「バ」と、材料のバターの添え字の「バ」が(xとyで区別したとしても)ちょと紛らわしいので、私は別の例で考えていくことにしました(←でも、結局、添え字を使わなかったので、意味はなかった)。クッキーとマドレーヌ。


 クッキーは、1枚あたり小麦粉6g、砂糖2g、バター4gを使うとし、マドレーヌは1個作るのに、小麦粉13g、砂糖11g、バター12gを使うことにします。そうすると、クッキーを20枚とマドレーヌを5個つくるのに必要な材料の重さは、

  〔小麦粉〕  6g×20枚+13g×5個=185g 
  〔砂糖〕   2g×20枚+11g×5個=95g
  〔バター〕  4g×20枚+12g×5個=140g

ということになります。この計算は、次のように行列の計算として示すことができます。



 こんなふうにして、作りたいクッキーの枚数とマドレーヌの個数が決まれば、必要な小麦粉、砂糖、バターの重さを求めることができるわけですが、そんなことができるのも、クッキー1枚を作るのに必要な材料の重さと、マドレーヌ1個を作るのに必要な材料の重さがわかっていればこそ。

 すなわち、クッキーの枚数とマドレーヌの個数を入力x1、x2とし、必要な材料である小麦粉、砂糖、バターの合計の重さを出力y1、y2、y3とすれば、xたちとyたちの関係は、次のように表せることがわかります。↓

  

 左側の式において、それぞれのかっこをひとまとめとしてながめると、これも Y=AX の形に見えてきます。ただし、YやAやXを構成する数値は1つずつではないので、微積分が正比例関数の「局所化」であるのにたいし、こちらは「多次元化」ということになるのでしょう。

 この場合、YとXは多次元の変数をひとまとめにしたもの、つまりベクトルであり(>)、Aは「多次元の比例定数表をひとまとめにしたもの」としての行列だと言うことができそうです。

 次は線型性について。森毅は線“型”という漢字を使っていて、趣味によっては線“形”とも書くとコメントしていますが、私はブロブでどっちとも使っているみたいです(たぶん、そのときに読んでいるものにあわせているんだと思う)。というわけで個人的にこだわりはないので、いまは森先生にあわせて「線型」を使いたいと思います。

 すでに記事は削除していますが、以前、線型性について書いたときに、私は次のような2つの式を示しました。

  [1] f(x1+x2)=f(x1)+f(x2
  [2] f(ax)=af(x)

 森毅『線型代数―生態と意味』では、[2]のほうの式のaが、rで示されており、右からかけられています。

  [1] f(x1+x2)=f(x1)+f(x2
  [2] f(xr)=f(x)r

 r倍を右からかけるとx2とかx3になってヘンだから、通常は2xというふうに左からかけるが、非可換係数まで考えるときは、右と左を区別した方がよいし、行列算と合うのは、右からかける方なので、なるべく右からかけてxrを使うことにする、とのこと。(p.20より)

 そして読み進んでいくと、r倍のrというのは<数>であり、数というのは、いちおう、4則のできる対象と考えておいてよい、と話は続きます。このような対象Kを数体といい、有理数体Qか、実数体Rか、複素数体Cと考えておいてよい、非可換な4元数体とか有限体とかを考える場合もあるが、さしあたりは、普通の数として、QRCである、と。

 ほんでもって、「K自身も(1次元の)線型空間である.これをスカラーというのだが,スカラーとは1次元ベクトルなのだ.」と説明したうえで、

 ここで,

    x×2=x+x,  x×3=x+x+x, ・・・・・・

などだから,r倍というのは,和から発展したものだとも考えられる.そこで,より根源的なのは

    f(x1+x2)=f(x1)+f(x2

の方だろう.これは《重ね合わせの原理》と言われることもある.

(p.21)

と書いてあります。「なーんだ、やっぱり結局、かけ算って累加じゃん」というツッコミはともかく、上記の説明はとても納得がいきます。本来、[1]だけでいいんじゃないの?って気がしちゃう。だったら、それをもとに比例の定義をしちゃえばいいんじゃないの?って思う。

 だけど、[1]をいざ言葉にしようとすると大変。「ともなってかわる2つの量x、yについて、xのうちの2つの値の和であるxに対応するyの値が、もとの2つのxに対応するyの値の和になっているとき、yはxに比例するという」ってわけわかりません。しかも、1箇所だけ確かめてもだめなんですよね、たまたまかもしれないから。どこでもそうなっていないと。
 
 それいえば、2倍、3倍、・・・も、どこまで確認したらほんとにそうなっているのか、わからないといえばわからないですよね。そう考えると、y=axという関係で表されることを確認したほうが話がはやいし、気持ちいい。だけど、これは重ね合わせの原理そのものではなく、それを確かめるためのワンクッション入った定義ということになってしまうのでしょうか。

 なお、このあたりのことに関しては、銀林浩『量の世界―構造主義的分析』のp.138〜140に書いてあります。関数が加法保存性をみたすとき、その関数を正比例関数とよぶのだけれど、ある関数がこの条件をみたすかどうかを直接確かめることはあまり容易ではない。そこで、同じ状態を2つ重ね合わせて、入力が2倍になったら出力も2倍になるかどうかという倍化の原理が成り立つかどうかを調べれば、加法保存性が成り立つ公算は大きくなるが、まだ不十分・・・というふうにして。

 で、いま読んでいるのは森毅『線型代数―生態と意味』のうちの、「0.なぜ線型代数か」と「1.多次元量の乗法」のところなのですが、「1.多次元の乗法」は「乗法の総括」という項目でまとめられています。行列の乗法が考えられると、いままでの乗法をすべて行列算の形で考えることができ、それは1次元の場合には、小学校からやってきた量の乗法に対応している、と。

 細かく読んでいくととても行数を使いそうなので、ざっくりまとめることにしますが、その前に書いておかなければならないことは、森毅は行列をかけ算ではなくわり算のような形で示していること。たとえば、たてに数値が3つ、横に2つ並んだ行列は、3行2列の行列なので、3×2行列と呼びたくなるけれど、森毅はこれを3/2という形で表しています。つまり、m行n列行列をm/n行列というふうに(m×nと書く流儀もあるが、この方がよいだろうということで)。どうしてだろう?と思いつつも、まあ、そういう書き方もあるだろうと思って特に気にしていなかったのですが、途中で、「ああ、なるほど、こういうことかな?」と自分で納得しました(これについてはのちほど)。

 では、「乗法の総括」を適度に省略してざっくりと。l(エル)が1とまぎらわしいので、記号も変えてあります。

 たとえば1kgあたりb円の針金akgの値段をc円とすると、b円/kg × akg = c円 という式ができます。これを多次元量で表すとしたら、Ba=cという形になり、

  (m/n行列)×(n次元ベクトル)=(m次元ベクトル)

と表せます。(これをみて、「/」を使った行列の書き方ってそういうことなんだ、と納得したしだい。つまり、上記の式からmとnだけ抜き出したら、文字式そのままになるなぁ、と。→「 m/n × n = m」 ちなみに森毅はそんなことは書いていません。)

 で、(n次元ベクトル)を(n/1行列)と考えれば、上記の式は、

  (m/n行列)×(n/1行列)=(m/1行列)

と考えることもできます。

 次に、kgの単位をはずして、b円 × a = c円 として考えるとどうなるかというと、ベクトルのスカラー倍 ba=c に対応することになり、

  (m次元ベクトル)×(スカラー)=(m次元ベクトル)

と表せます。先と同様に形をかえると、

  (m/1行列)×(1次元ベクトル)=(m/1行列)

となり、さらに、

  (m/1行列)×(1/1行列)=(m/1行列)

と表せるというわけです。

 最後に、円の単位も忘れてハダカの数の乗法、b×a=cを考えると、

 (スカラー)×(スカラー)=(スカラー)…(1)
→(1次元ベクトル)×(スカラー)=(1次元ベクトル)…(2)
→(1/1行列)×(1次元ベクトル)=(1次元ベクトル) 
→(1/1行列)×(1/1行列)=(1/1行列)

になるというわけです。なんでこんなふうに変形していくかが最初よくわからなかったのですが、考えてみれば、上記の(1)の「スカラー」をそのまま全部「1次元ベクトル」にしてしまうと、(2)は「(1次元ベクトル)×(1次元ベクトル)=(1次元ベクトル)」となってしまい、こういうベクトルの式は成り立たないですよね。以下同様に、それぞれ、ベクトルなり行列なりの“成り立つ式”に変形しながら、最後に行列だけの式にもっていっているのだろうと私は理解しています。

 そしてこのあと、乗法にはこのほかに長方形の面積やモーメントなどのように複比例に関係するタイプの乗法もあるが、それについては別の問題としたうえで、

・・・さしあたり,正比例とのかかわりでは,行列算の枠組みで乗法が統一的に眺められることになる.
 逆に言えば,1次元量の乗法では,ハダカの数では区別されなかったものが,はっきりした次元の差として出てくるのが,行列の乗法ともいえる.つまり,ここでやったことは,小学校の量の乗法を,ベクトルや行列でやり直しただけのことだ.そして,そのことを通じて,顕在化されてきたのが,正比例における《線型性》でもある.そして,これこそ,今後の主題となる.

(p.25〜26)

と書いてあります。

 以上のことは、拡張された「帰一法」で書いた内容につながる話ですね。

 

(つづく)  

 

〔2018年4月12日〕  分けて書いていた記事をひとつにまとめ、整理しました。

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