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数学と数学教育
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このたび瀬山士郎『算数の目・数学のすがた』(日本評論社/1993)がきっかけで考えたこと

 森ダイアグラムについて考えているところですが、ここでちょっと、瀬山士郎『算数の目・数学のすがた』(日本評論社/1993)がきっかけでこのたび考えたことを書いておくことにしました。

 詳しくは把握していないのですが、確か瀬山先生も、「かけ算の順序」問題でやり玉にあげられているのをどこかで見かけた記憶があります。あらためて検索したら、次のページにたどりつきました。「ある数学教育論争」に、「かけ算の順序」問題についての記述があるようですね。
http://homepage2.nifty.com/seyama/zatu.html

 上記リンク先に「多次元量の正比例」という言葉がありますが、おそらくこれは、前回書いた線型代数のイメージ(その1)につながる話なのだろうと私は理解しています。
 
 実際、瀬山士郎『算数の目・数学のすがた』(日本評論社/1993)にも同様のことが書いてあります。さらに、多次元量の場合の「単位あたり量」と「倍」の違いについても触れてあります(p.108)。

 1次元だったら、きのうの例でいえば、クッキーx枚に使う小麦粉の重さも、実際に作ろうとしているクッキーの枚数の6倍の枚数(なんかヘンな言い方?)も、どちらも6xと表され、見た目は同じになりますが、多次元量の「単位あたり量」は、製品ごと、材料ごとに考えたそれぞれの「単位あたり量」の組み合わせ、つまり行列になるのに対し、「倍」の場合は、いわゆるスカラー倍としてその操作は最初から内臓されているという話です。↓

       
したがって,ベクトルをk倍するという形での正比例は,内包量の導入によって初めてきちんと定義される正比例とは質を異にしていたのです.これが1次元量の正比例関係では,どちらも実数の積として表現されていました.ところが,多次元の量になって,この2つの正比例関係ははっきり区別されるべきものとして,その本当の姿を見せてくれるのです。
   (p.108〜109)

 という問題をいったんおいといて、この本のオープニングに目をうつすと、「内包量」の説明から始まり、メインの題材として食塩水の濃度がとりあげられています。瀬山先生は、均質・不均質の話をわかりやすくするため、そして微分積分の話をわかりやすく伝えるために食塩水を題材にされたのだと思いますが、食塩水の濃度は、遠山啓が分類するところの「率」です。すなわち、同種の2量の比であり、異種の2量の比であるところの「度」ではありません。均等分布が考えられるので「度的な率()」ではありますが。

 ついでにいえば、「混み具合」も、人口密度のように人数と面積を使っておらず、乗客数と定員数の関係、つまり乗車“率”にしています。

 以上の2点(スカラー倍と、微分積分の話を「率」で説明すること)について、私は、うーん・・・と考えこんでしまっています。かけ算の式を、「外延量」「内包量」の視点で考えてみるで書いたように、遠山啓は同じ時期に、「度」と「率」のみならず、「倍」と「比」も内包量に入れた量の系統図と、「倍」と「比」は内包量からのぞいた系統図の両方を書いているのですが、「量の理論」にとって、この違いというのは実はけっこう大きいのではないだろうかという気がしてきました。もっといえば、「率」は果たして量なのか数なのか、という疑問も再びふくらんできます。

 遠山啓は濃度のことを純粋数といってみたり()、三角比も「斜辺 : 対辺」では不十分で、斜辺/対辺=sinAという率にまで高めておくほうがよい、そのためにはsinAを比の値としてより、斜辺が1の直角三角形の対辺の長さそのものにしておいたほうがわかりやすい、というようなことを言ったりしているのですが(前者は著作集『量とはなにか―供p.18、後者はp.22〜23)、「率」ってなんなの?ということがよくわかなくなってきました。あるいは、「率」と「倍」の関係はどうなるのか、と。

 瀬山先生が食塩水の濃度を使って微分積分の説明をされたのは、不均質な状態も均質な状態もとれる内包量だからでしょうが、たぶん例としては、「速度」がいちばん無難なのでしょう。でも、速度の場合、食塩水の濃度のように不均質な状態でとまっていてはくれないし(変量の片方が「時間」なので難しい)、逆に“ふつう”すぎる面もあり、濃度を選ばれたのかもしれません。

 で、私は、どうしていままでこのことに気づかなかったのだろう・・・と、ある発見をしました。以前、学習指導要領では「単位量あたりの大きさ」にしか「割合」という言葉を使っていなくてびっくりしたことを割合の三用法と、「倍」のかけ算との関係で書きましたが、ということは、「同種の二量の割合」という言葉は学習指導要領には含まれていないのですよね。教科書では大抵、百分率の学習に「割合」という単元名をつけていると思うのですが、このあいだプチ比較をしたときにそこまで慎重に確かめなかった。あ、でも、やっぱり「割合」という言葉の説明をしているぞ・・・>割合の三用法と、「倍」のかけ算との関係

 ほんでもって、私はこれまでずっと、教科書でいうところの「割合」は、「倍」の延長になると思っていたのです。「倍」も、同じ種類の2量の関係だから。ということは、私の認識としては、「度」「率」と「倍」「比」の間に大きな境目があるのではなく、「度」と「率」「倍」「比」の間に大きな境目があるということになることを、いまごろ自覚しました。でも、瀬山先生の本を読むと、1次元の場合は、「率」は微分積分を説明するための内包量の代表になれるくらいのものなのであり、頭がこんがらがってきています。これは、局所化された正比例関係と、多次元化された正比例関係の違いなのでしょうか?

 考えてみれば、スカラーというのは別に「数」ということではなく(森毅は『線型代数』でスカラーを(数〉と言っていますが)、「量」ですよね。量の組であって量そのものとは違うベクトルと区別するために、1次元のものをスカラーとよんでいるのかと思っていたのですが、違うんでしょうか。でも、スカラー倍のkは、「倍」なのだから、量ではなく、「関係としての“数”」なのだろうか。それとも、スカラー“倍”といったときに、「倍」になれるの? なんだかスカラー倍という言葉の意味もよくわからなくなってきました。「倍」ってなんなんだ〜〜 「率」ってなんなんだ〜

 そういえばかけ算、関数、モノとハタラキ (1)において、「倍」や「割合」を比例定数とする関数をブラックボックスを“シェーマ”として表現した図を示しましたが、そもそも、遠山啓が比例のシェーマとして提案した水槽は、xが2倍、3倍、・・・になると、それにともなってyも2倍、3倍、・・・になるということのイメージを伝えやすくするためのものであり、なおかつ、このときのxとyの関係を表すy=axのa、すなわち比例定数は、(実際に数値はわからなくても)xとyの体積比をあらわす値、つまり「倍」になるはずですよね。

 比例には、「xが2倍、3倍になると・・・」というふうにして必ず「倍」が出てきていて、出てくるもなにもそれは定義を成り立たせるおおもとの概念だったはずであり、だとすると、比例定数も「倍」であたえられる関数において、その2つの「倍」は同質のものなんでしょうか、異質のものなんでしょうか。4マス関係表にしたときに、上下も左右も同質の「倍」となる関数ってあるんでしょうか?

 という疑問はひとまずおいといて(おいてばっかりだな^^;)瀬山先生の本にもどると、この本には「食塩の量=食塩水の濃度×食塩水の量」という形の式もビシバシ出てきます。まず、「食塩水の濃度=食塩の量/食塩水の量」を「食塩の量=食塩水の量×濃度」という“ふつう”の式に変形したあと、かける数とかけられる数を入れ替えて示されています(p.9)。

 「食塩の量=濃度×食塩水の量」という式は、「くらべる量=割合×もとにする量」の形をしており、割合の第二用法の一般的な形において、かける数とかけられる数を逆にしたものになっています。「外延量=内包量×外延量」という形にするためには、そういうことになるのだろうと思います。だから、割合の場合も、「くらべる量=もとにする量×割合」でも、「くらべる量=割合×もとにする量」でも、どちらでもいいのだ、ということになろうかと思います。

 そういえば、前にも書きましたが、「1あたり量」という言葉を使ったかけ算の順序固定批判をよく見かけるのに対し、割合についての実例をあげての批判は、あまり見かけないですよね。あるところにはあるのかな? 4%の食塩水600gに含まれる食塩の重さを求める式を、0.04×600と書く子どもって、あんまりいないのでしょうか。それとも先生がバツをつけない? あるいは、親が気にしない?(そのまえにテストを見ない、見せない?^^;) 小2と小5の違いなのか、それともかけ算側の違いなのか。

 などなど、疑問はつきないのでございました。

〔その後の展開〕>「比的率」は外延量という考え方(2)/問題意識
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