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数学と数学教育
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ベクトルで主客反転を考える――「あなたはだれ?」

 というわけで、谷村省吾『理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何〜双対性の視点から〜』(2006年/サイエンス社)の第1章にもどります。「1.5 外延と内包」の次は「1.6 双対性」となっており、ベクトル空間という文脈で議論が展開されているのですが、一形式(あるいは線形汎関数)、双対空間の説明は割愛して、かつてこのブログで例にとったある具体的な状況について再び考えてみたいと思います。

 それは何かというと、「レストランの会計」のこと。もとはといえば、遠山啓はベクトルを矢線ではなく多次元量として教えるべきだと主張していたことから始まった話なのですが(>遠山啓はベクトルをどう教えるべきだと語っていたか)、あのときには、ベクトルの内積をレストランの会計として考えることと、「お会計不透明カフェ」の会計を透明にするための単位ベクトルのことを考えました。

 で、作用するベクトルで示した行列の式(4つのお店と、4つのグループ)を使って、ベクトルの主客反転のことを考えたいと思います。

 メニューは、コーヒー、ミルクティー、ジュース、アイスクリームの4品。そして、4つのお店でのそれぞれの単価を左側の行列で示し、4つのグループのそれぞれの注文数を右側の行列で示したのでした。この中から、どれか1つのお店の単価の組をヨコベクトルで取り出し、どれが1つのグループの注文数をタテベクトルで取り出すと、「単価×注文数」の合計で、グループが支払う金額を求めることができました。

 それで、お店の立場から見れば、単価は一定であり、グループによって注文数が異なっているので、お会計も異なってきます。このときはグループの注文数が変数になり、お店の単価の数値は関数側の数値になります。

 一方、グループとしては、どのお店に行ってもいつもこの注文数でオーダーするとしたら、どのお店に行くかで会計は異なるわけで、この場合は、お店の単価のほうが変数で、グループの注文数は関数側の数値になります。

 なので、お店の単価とグループの注文数の、どちらが変数になるのか、どちらが関数側になるかは、お店の立場にたつか、グループの立場にたつか、その立ち位置に依存することになります。

 谷村さんはこのことを、「太郎、次郎、・・・」といったいろいろな人と、「身長計、体重計、・・・」といったいろいろな測定器を例について説明しておられます。測定器を1つ選んで、いろいろな人を測ることもできるし、人のほうを固定しておいて、いろいろな測定器で測ることもできる。まさに学校で健康診断が行なわれるときの保健室の状況は前者にあたるでしょうし、わが子の健康手帳に綴られた内容は後者の記録にあたるでしょう。

 つまり、どちらが変数でどちらが関数かは、一時的、相対的なものにすぎない。もっといえば、関数と変数は対等の立場にある。

 というようなことが、paring、線形同型写像という言葉の説明とともに示されているのですが、そのあたりは割愛して、ひとまずベクトルには双対空間というものが存在することだけおさえておきます(ちょっと乱暴すぎる考え方ではありましょうが、上記のタテベクトルであらわされるベクトル空間に対して、上記のヨコベクトルで表されるような双対空間というものがある、といまは理解しています。いずれちゃんと考えることにします)。

 思えば、どちらも4つの数字の組み合わせで、とりあえずヨコとタテで区別しているだけの話であり、これを反転させることは、それほど奇異なことでもないように思えます。

 それで、関数fが変数vを別のものに変換させるものだとすると、このときハタラキとしての関数fは変数vを見つめているわけですが、実はfは変数でもあり、別の関数Tによって見つめられていた、ということになります。

 ほんでもって、双対空間の双対空間は自分であり、双対は2回施すと元に戻るので、ベクトルの双対空間で考えるとき、上記のTはもとの変数vであり、fは自分が見つめていたつもりのvに実は見つめられていた、ということになります。

 このことを、谷村さんは次のように書かれています(Rは白抜き)。

Vというのは正体のよくわからないものなので,実数Rという正体のよくわかっているものに対応させてやろう,何らかの測定値を引き出してやろうという働きの集合が双対空間V*=(V→R)である.言わば,V*はVに対して「あなた誰?」という問いかけを発しているのである.問いかけて答えを引き出すことがV→Rという矢で表されるのである.さらに,V**はV*に対して「あなたこそ誰?」と問うている.ところが,じつはVがV*に対して「あなたこそ誰?」と問い返す側に回っていたわけで,「『あなた誰?』と言っているあなたは誰?」という質問を発する者は,当初の「あなた」と呼ばれていた者である.この問いかけ合いが
  V**=(V*→R)=((V→R)→R)=V
という輪を描いてV自身にはね返って来るのである.

 「なんて面白い話なんだ!」と思ったあと、さらにこう続くのです。

この問いかけ合いは,自問自答ではなく,他者との対話であることに注意してほしい.双対性とは,他者との対話を通して,自他の立場を交換することによって自己認識を深める過程なのである。

 この部分にドキッとして、大変に感動したのでした。

 これまで双対というと、すぐに自己双対のことを思い浮かべていた私ですが、他者と対話すること、自他の立場を交換することにこそ、双対性の意味はあるらしいということを教えられました。しかし、まだ私は、実際にはその数学的内容を知らずにいます。知らずにいますが、このようなものならば是非理解したいと思ったわけなのでした。

 

〔2018年3月15日/リンク整理と細かい修正をしました〕

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