TETRA'S MATH

数学と数学教育
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「単位量あたりの大きさ」と「割合」の違い

 小2で学ぶかけ算の問題について考えることにします。

 「6つのお皿にみかんが4個ずつのっています。みかんは全部で何個ありますか。」という問題を、

A.  4個/皿 × 6皿 =24個

として解き、これを(1あたり量)×(いくつ分)の式とみなすのであれば、ここでいうところの(1あたり)は、(1皿あたり)のことなので、「1」は「1皿」をさしているのだと思います。つまり、(1皿あたり4個)×(6皿分)ということです。

 しかし、この問題を、

B.  4個 × 6倍 =24個

と考えると、この式には1“あたり”はありません。あるのは、1。森毅が『数の現象学』でモノスという言葉をつかっているところの、ひとまとまりとしてのカタマリ、つまり「4個」そのもののことです。つまり、Bは、倍概念を使った計算になっています。6倍というのは割合であり、4個を1と見たときに、6にあたるのが24個ということです。4個そのものが単位。実際、小学校の教科書では、「もとにする量を1としたとき、比べる量がどれだけにあたるかを表した数のことを割合という」といったような説明がしてあると思います。

 『数の現象学』によると、森毅は当時(1980年代)の指導要領ではBに焦点がおかれていると認識しているようです。累加からこちらにうつった、というような感じで。「かけ算の順序論争と数教協が無関係ではないかもしれない」ということは、遠山啓と同様にまったく念頭にはないようです。ちなみに『数の現象学』は1989年発行、数教協の60年代、70年代はすでに終わっており、その影響力が教科書その他に部分的に浸透し終わったあとだといってもいいように思います。実際、『数の現象学』では、言葉の式こそないものの、(1あたり量)×(いくつ分)という考えに対応する式のことも書いていますし、森毅が小学校の授業や先生と交流があったことがうかがえる記述もあります。

 この2つの計算方法は数値の順番も同じですし、さしたる違いはないように感じられますが、「割合」という観点でみれば、Aは“割合”が先にきていて、Bは“割合”があとにきています。そして、何を「1」と捉えるかの違いがあります。

 もしかすると、かけ算の順序にとてもこだわる先生は、実はAとBの区別がないのかもしれません。でないと、去年2年生を教えていた先生が今年5年生を教えることになったときに、かけ算についての定義の整合性がとれない場面が出てくるように思うのです。

 しかし、現在の(少なくとも昨年度までの)小2の教科書では、かけ算の定義と倍概念は微妙に区別されていることと思います。「1あたり量」という言葉はないとしても、「1はこあたり」といった言葉を使ってかけ算の定義をして話を進め、そのあとで「倍」を学ぶ構図になっていないでしょうか。別物として定義するのではなく、「倍」ともいうよ、みたいなノリで。倍として考えても数値の順序は変わらないのだから、かけ算の順序に矛盾はないし、特に困ったことは起こらなさそうに見えます。

 でも、AとBの区別をつけないのであれば、「1“あたり”の量」という言葉は使ってはいけないと思う。それは1「あたり」ではないから。

 遠山啓は、累加でもなく、倍概念でもないかけ算として、(1あたり量)×(いくつ分)という定義を示した。倍概念は、整数のときには問題ないが、分数倍などに拡張するときに無理が生じて、形式不変の原理に頼らざるを得なくなるから。だから最初から、「いくつ分」を「いくら分」、つまり、小数や分数に拡張させるときのことを考えてこう定義した。最初から、連続量の演算としてかけ算の定義をしたかった。そして、ここでいう「1あたり量」は“関係”としての割合ではなく、内包量という1つの量であった。遠山啓の主張を私はそんなふうに理解していたのです。というか、たぶんそうだと思うのです。

 で、勘違いして「人」で図を作ってしまったので、このあとはお皿ではなく人で考えていきます。つまり、「6人の子どもにみかんを4個ずつくばりました。みかんは全部で何個ありますか」という問題にすると、上記のA、Bは次のような式になります。

A.  4個/人 × 6人 =24個

B.  4個 × 6倍 =24個

 それぞれを、いわゆる二重数直線に表します。 




 この問題では、下の数直線の数値に「人」がつくか「倍」がつくかで、さしたる違いがないように見えます。しかし、次のような問題になると、違いがはっきりとあらわれてきます。

 「4mで72円のリボンがあります。このリボンの20mの代金はいくらですか。」

A.  72円 ÷ 4m = 18円/m
    18円/m × 20m =360円

B.  20m ÷ 4m = 5倍
    72円 × 5倍 =360円



 この場合は、Bのほうは三重数直線になります。また、AとBでは図に出てくる「1」の意味が違います(Aがいわゆる帰一算、Bが倍比例です)。Aのほうも、1mから20mにもっていくときを倍概念と考えるならば、三重数直線になります。

 しかし、小学校の教科書でいうところの「割合」(同じ種類の量の商)」、つまり遠山啓言うところの「率」は量が1種類しかないので、Bのタイプの数直線も、二重数直線ですみます。↓

 「果汁が60%ふくまれている飲み物があります。この飲み物500mLには、何mLの果汁がふくまれていますか」



 というところまでをふまえて、例のお赤飯の問題について考えます。遠山啓著作集数学教育論シリーズ5『量とはなにか〈1〉』p.131に載っている授業例です。

 ある授業で、赤飯づくりの実験をやったときのこと。米と小豆をある割合で混合してかきまぜたあと、そのなかから単位量をとりだして、どれも同じ率で米と小豆が混合していることを確かめさせたそうです。子どもたち(5年生)は、どの部分をとってもおなじ分量の米や小豆が入っていることを知って、大変驚いたそうです。そして、この実験のあと率の第二用法の問題をやらせたら、子どもたちは

   全体の量×含有率=含有量

というふつうの式ではなく、

   含有率×全体の量=含有量

というかたちに書いて計算したそうなのです。

 率の第二用法というのは、(割合)=(比べる量)÷(もとになる量) から導きだされる (比べる量)=(もとになる量)×(割合) という計算式です。現在の教科書にものっていると思いますが、割合の式のように太字や罫線囲みで強調されていないかもしれません(未確認)。「2000円の70%はいくら?」といった問題で、2000円×0.7と計算するときの式です。

 具体的な数値でいうならば、「小豆が30パーセントだけはいっている赤飯がある。4kgでは小豆がいくらはいっているか」という問題で、子どもたちは、

  4×0.3

ではなく、

  0.3×4

という形の式を書いたことになります。つまり、

 (混合物1kgあたりに小豆0.3kg)×(混合物4kg分)

という式を書いたわけです。あえて単位をつけると、

 0.3kg/kg × 4kg 

となります。

 以前、この話を読んだときには、「2年生のときに(1あたり量)×(いくつ分)をたたきこまれた子どもたちは、自然とこういう式が書けるんだなぁ」と感じたのですが、考えてみれば 0.3×4 という式を書きたくなる実験ですよね。遠山啓は、子どもたちが書いたこの式を、「むしろ望ましいかたち」としています。

 もし、4×0.3 という「ふつうの」式が自然にかける授業にするなら、どういうふうな実験をすればよかったのでしょうか。倍概念の延長としての割合だから、一定の量ではなく、一定の量の2倍だったらどうか、3倍だったらどうか、半分だったら、10分の1だったらどうか……と調べる実験にすればよかったのでしょうか。

 なお、二重数直線で考えると、こういうことになります。


 子どもたちの考えた解き方↓




 「ふつうの」割合の問題としての解き方↓




 しかし、今回子どもたちが考えたような方法、つまり「割合」ではなく「単位量あたりの大きさ」として考える解き方が成立するのは、遠山啓分類でいうところの「度的な率」までです。つまり、「よく混ぜる」という均等分布が可能なものまで。打率や三角比では使えません。

 ちなみに、小学校で「単位量あたりの大きさ」を学ぶ前には「平均」を学習していると思います。“ならす”ということをよりどころに単位量あたりの大きさに入っていくのだと思う。だから、“ならす”ことができないものは、単位量あたりの大きさでは扱えません。ので、このような率を遠山啓は「比的な率」とよび、均等分布が考えにくい比的な率に関しては、比例のあとでやったほうがいいのではないか、と提案したのでした。

 つまり、遠山啓の提唱していた小学校高学年の数量分野の学習順序は、

 度(異種の二量のわり算の商)
→度的な率(均等分布が考えやすい同種の二量のわり算の商)
→比例
→比的な率(均等分布が考えにくい同種の二量のわり算の商)
→比

という順番だったと私は認識しています(あくまでも私の認識)。

 なお、小5で学ぶ「単位量あたりの大きさ」は「度」にあたり、「割合」は「率」にあたりますが、教科書では「度的な率」と「比的な率」の区別はさほど意識されていないようにも思います(いずれ検討したいところです)。とにもかくにも、度と率の橋渡し部分である「度的な率」としての小豆の含有率の問題で、子どもたちが上記のような式を出してきたのは、大変に面白く示唆深い話だと感じています。


〔2018年4月6日〕
 分けて書いていた記事をひとつにまとめ、整理しました。

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