TETRA'S MATH

数学と数学教育
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中世ヨーロッパの商人にとっての「比例式」

 正比例関係から“正”と“関係”をとって「比例」にすれば、あるいは“例”もとって「比」にすれば、とたんに話は古代ギリシアっぽくなります。しかし、いまはそこまで遡ることはせず、中世ヨーロッパの商人たちにとっての比例---比例式---をのぞいてみたいと思います。そこに出てくる比例の習慣が、黒表紙時代の教科書に影響を与えているようなのです。また、やわらか頭「江戸脳」をつくる和算ドリル (講談社+α新書)によると、『塵劫記』にも同じような問題が出てきて、同じように解いているそうなのです。
 たとえば中世ヨーロッパでは、「amでb円の布地は、cmでは何円になるか」という問題を解くとき、a:c=b:x という比例式をたて、「内項の積は外項の積に等しい」という法則を使って、bc=axを求め、両辺をaでわって、x=(b×c)÷a=bc/a を出していたそうです。商人たちはその意味はわからないまま、機械的にこのような計算をしていたようです。

 また、『塵劫記』では、「2丈8尺で5匁の木綿布は、8尺5寸ではいくらか」という問題を、「まず8尺5寸に5匁を掛くれば425に成る。これを2丈8尺にて割れば、1匁5分1厘8毛と成也」と解いてあるそうです。

 遠山啓は、中世ヨーロッパの商人たちにとって比例は常用の計算手段であったことをスピノザの言葉を引用して述べたあと、次のように語っています。
(遠山啓著作集『量とはなにか−機p125)
この引用文からもわかるように,当時のヨーロッパの商人たちは,その計算の理由を理解することなしに,ただ機械的に法則を適用して,答えをだしていたのである。このような習慣は,長いあいだ,つづいたらしい。しかし,この習慣は数学教育に一つの禍根を残したといえる。それは比例という領域を数学教育の一般的な体系からきりはなし,比例だけをある特殊な領域とみなす習慣をつくってしまったのである。
 そして、『尋常小学算術書』(黒表紙)の6学年用(第3次改訂版)において、比例がどう扱われていたかを示しています。そこにあるのは比例式を「外項の積は内項の積に等しい」ことを使って解くだけの内容で、「これではとても理由がわかるところまでいかず,結局はつめこみになるほかはなかっただろう。」と遠山啓は指摘しています。
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