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数学と数学教育
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「とれたての定理です 第5巻」から/後半

 少年少女数学愛好会「とれたての定理です 第5巻」後半のご紹介です!


6.鏡像によるヴァーチャル多面体(みやじ)

 みやじ先生による、5つの正多面体が見える万華鏡設計のレポートです。

 鏡の反射を利用して正多面体が見えるような万華鏡を作るためには、繰り返しのもと(実体)となる三角形と、それを映し出す三角錐が必要です。その三角形および三角錐の各サイズを計算して再現するということが、万華鏡を設計するということになるわけですが、みやじ先生はその前段階として正多面体の双対を扱っていらっしゃいます(ただし「双対」という言葉は使っていない)。

 その昔、自分のホームページで正多面体の双対について書いたことがあり、いまは外付けとなっているハードディスクの中から拾い出せるかどうかさがしてみたところ、きれいな画像ではないけれどありました。たとえば、正六面体と正八面体の双対関係については、「頂点と面を入れ替える」という発想で次のような図を示しました。





 なお、正六面体と正八面体が双対関係にあるように、正十二面体と正二十面体も双対関係にあります。正四面体は自己双対です。

 こんなふうに双対関係をながめていると、正多面体の対称性が見えてきます。鏡を使ってもとの立体を再現するということは、対称面をさがすことにほかならならず、3つの対称面で囲まれる最小単位を見つければ「繰り返しのもと」が発見できます(できるはず)。

 では、実際にどう計算すればいいのかということで、空間座標で表し、計算していくわけですが、ここで役に立つのが名刺3枚を組み立ててつくる正二十面体の“骨板”(勝手に命名)。名刺は黄金矩形の近似形として使えるので、3枚の名刺にうまく切り込みを入れて組み合わせると、頂点が正二十面体の頂点の形に配置されるのです。私も以前、『美の幾何学』(伏見康治、安野光雅、中村義作)を見て作った記憶があります。3枚目を入れるのがけっこうむずかしかったおぼえがあります。

 この3枚の名刺は互いに直交しているので座標系とみなせ、正二十面体の頂点を座標で表すときに、とても考えやすくなります。ということに気づいたのは、みやじ先生のレポートを読んでから! なるほど、それで黄金矩形の話から始まっているわけですね。名刺の短辺を1、長辺を Φ=(1+√5)/2 とおけば、0、1または−1、Φまたは−Φの組み合わせで、それぞれの頂点をとても簡単に座標で表すことができます。立方体や正八面体よりも、正十二面体や正二十面体のほうが扱いにくい印象があるけれど、そっかぁ、そういうことだったのかぁ、と納得。

 あとは、重心、線分の中点、2直線の交点として必要な点の座標を求めたあと、近似値を出して、いよいよ製作です。と口で言うのは簡単だけど、実際に作ると微妙な誤差で正多面体にならなかったりして、けっこうコツがいるのだろうなぁ〜と想像しています。たぶん、これって、実際につくってのぞいてみるのがいちばんでしょうね! 何しろもともとがヴァーチャル立体なので!


7.正多面体フレーム内の石鹸膜(ゆっき・えりか)

 正多面体の対称性がつくる世界に、今度は石鹸膜という実体の物理現象(!?)からせまります。

 最初は、黒田俊郎先生の「砂が教える幾何学」の話から始まります。伝えきいたところ、黒田先生もお元気そうで、何よりでございます。

 さて、砂が教える内心では、三角形の板の上に砂をふりかけることで、3つの角の2等分線が稜線として浮かび上がりました。同じようなことを3次元で考えられないか?というのが、石鹸膜の実験です。ちなみに、「ボロノイ」という言葉にも触れられています。

 そして、ZomToolで各正多面体の枠を作り、しゃぼん玉液に浸して石鹸膜を貼り、観察していきます。基本的には、最初に予想したとおりに各辺から等距離になるよう面ができたようですが、中に空気が入っていないときと入ったときの違いや、立体が安定してできる場合とそうでない場合などの様子が綴られていて面白いです。また、枠の大きさにも左右されるようです。

  

 この石鹸膜の話も、いろいろな方向に研究を進められそうなテーマですね!(数学的には難しくなっていくことでしょうが)。ゆっきさん、えりかさんも「引き続き調べていきたいと思いました」と書かれているし、興味をもった後輩たちが、また“その先”に誘ってくれるとうれしいなぁ〜と思いました。物理・化学・生物、それから最短距離の問題とか工学とか、たぶん、いろいろ関わってくるのだろうと想像しています。


8.複素整数(しおり・あやの)

 実は、「とれたて5」ができるだいぶ前に、みやじ先生から、今年の理数科課題研究ではこんなことやったんだよ〜というお話をきいており、そのなかに「複素整数」という文字を見つけて「なんだそれは!?」と過敏に反応してしまったのでした。

 複素整数というのは、2−3i や −1+5i のように、(整数)+(整数)i という形で表される複素数のことですが、「複素」のあとに「整数」という言葉が続くと、なんだか不思議です。整数と虚数単位iで構成された複素数と考えることもできるけれど、整数の世界を複素数まで広げたと考えると---(整数)+0×i と考えれば、ふつうの整数になるわけだし---何が見えてくるのか?…というわけで、高木貞治『初等整数論講義』を手ががりに複素整数の考察が進められていきます。

 複素整数の和・差・積はどうなるのか? 倍数・約数はどうなるのか? 剰余の関係は?

 さらに、複素平面を使って、複素整数の倍数の分布を調べていきます。

  

 最後には、「複素整数の素数」の分布もあるんですよ!

 そんなふうにして、複素数を通して整数の世界を捉えていくというのがとても面白いと思いました。

 できあがったものを見るだけの私は、「複素平面に表していく作業は楽しかったろうな〜!」なんて呑気な感想をもってしまったのですが、実際には、手書きで1枚1枚方眼紙に点をとり、何度も失敗して、大変だったようです。「先の見えない研究だった」とのこと。なるほど〜〜


9.2次元有界閉曲面の分類(だいすけ・なおこ・やすえ・ゆりえ・ひろみ)

 いやぁ、これすごいわ…

 高校でこれだけのことができるのだと感嘆しております。

 最初は根上生也著『トポロジカル宇宙 ポアンカレ予想解決への道 完全版』(日本評論社/2007)を読み、内容についてメンバーで議論するところから始まったそうです。そして、粘土でどこまで実現できるのか、球面、トーラス、射影平面、クラインの壺に挑戦。

 その結果を、岩手大学教育学部数学教室の公開講座において、高校生の数学研究という形で発表。また、群についての小宮山晴夫先生の講義を聞く機会もあったようです。

 さらに、群についてメンバーで議論しながら理解を深め、いくつかの曲面についてホモトピー群を求めた上で、L.Christine Kinsey著『Topology of Surfaces(Undergraduate Texts in Mathematics)』のなかの、2次元有界曲面の分類定理とその証明に取り組んだのだそうです。

  

 そして、この研究の最終目標は、自分たちが学んだことを、他の生徒がわかるような「紙芝居」に表すこと。これがとってもほのぼのとした、いい出来上がりになっているんですよ〜(^^) ときどき出てくるメンバーの似顔絵キャラや人形が、いいアクセントになってますぅ。なお、CDにはパワーポイントでつくった紙芝居が収録されています。

 テーマのレベルの高さもさることながら、グループでコミュニケーションをしながら研究を進めていったこと、大学との交流・連携があったこと、自分たちが学んだことを他の生徒にわかりやすく伝えようとする作業など、いろいろな面で興味深い実践記録になっています。


10.立方体から正多面体を切り出す(まちこ・まさこ)

 思えばこのブログ「TETRA'S MATH」は多面体木工の話題から始まったんですよね。あれから約3年かぁ〜

 多面体状のものを立体で表現するときは、厚紙工作や折り紙などの面構成か、棒を使った稜線構成の場合が多いのではないかと思います。また、中身のつまった状態のものを作るときでも、液体から個体になるような材質のものであれば、型取りをして材料を流し込む方法で作ることができるのだろうと想像しています。

 しかし木工の場合、「塊からいらないところを切り落とす」という方法で多面体を浮かびあがらせなければなりません。なりませんというか、そこが面白いところであり。なので、面構成や稜線構成の場合とは違って、立体的な角度を作り出すための計算が必要になってきます。また、途中のプロセスで出てくるのもそれぞれに立体であり、「立体を立体として作っていく」という感じがして、そこが魅力なのだと思います。

 中川宏さんの場合は木を使いましたが、まちこさんとまさこさんは、発泡スチロールと専用カッターを使って「正多面体の切り出し」に挑戦しました。2人それぞれの計算と方法で。「とれたての定理です 第5巻」には、レポートのほか、研究日誌や対談も綴られています。研究日誌には手書きのノートの写しあり。対談は脱線具合も含めてリアル。声が聞こえてきそう。

 

 それにしても、「とれたて」に関わる高校生たちは、プレゼンの力も身についていくでしょうね〜!

 というわけで、「とれたての定理です 第5巻」のご紹介をさせていただきました。興味のある方はとれたての定理です 第5巻のページからみやじ先生にアクセスしてみてくださ〜い!


〔2018年3月29日〕
 複数に分けてかいていた記事をひとつにまとめ、整理しました。

 

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