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数学と数学教育
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「とれたての定理です 第5巻」から/前半

 少年少女数学愛好会「とれたての定理です 第5巻」から、まずは前半のご紹介です!


1.おいらの定理(ちなつ)

 ちなつさんは第4巻で、「多面体上でまるを描く」というレポートを発表されており、今回はその発展形です。まずは、多角形の内角の和・外角の和から始まり、凸型多面体の「頂点のまわりの角度」(※)―― レポートでは「1つの頂点をぐるりと回ったときの方向の変化の総和」というような表現になっています ―― の考察を経て、立方体を組み合わせてできる立体(階段型・ドーナツ型・穴2個・穴3個・穴n個、……)の考察へと進みます。

 そして、オイラーの多面体定理の証明を経て、いよいよ「おいらの定理」です。「おいらの定理」とは、「おいらの数」を“不足分の角度の総和”(※)と定義した上で、次のような式で表される関係のことです。

  「おいらの数」=360°×(オイラー数)

 立方体の結合による頂点と頂点の共有、辺と辺の共有(1辺、2辺、3辺、……)、面と面の共有(1面、2面、3面、……)によってオイラー数と「おいらの数」がどう変化するかを順を追って調べたあと、「おいらの定理」の証明に入ります。

 そして、最後は粘土で作った曲面のある立体を示し、図形の連続的な変形についてのオイラー数の不変性とおいらの定理の予想(今後の課題)で締めくくってあるのでした。

 うわー、お手本のようなきれいな構成のレポートだー。

 第4巻の巻末エッセイでは、ちなつさんの「これまで」が綴られていました。小・中学校では数学が天敵で、将来の夢も「バフッとした部分」しかつかめずにいたこと。高校生になったばかりの頃、日々の復習プリントと“かなり個性的な”M先生に驚いたこと。2年生で「不思議で仕方がなかったこと」が、数学Cを学んだときに発見があり、証明が仕上がっていく喜びを知ったこと。3年生で数学が日常に深く入りこんでいく高揚感、生まれてはじめて自分から数学を学んだ感触を味わったこと……。1年、2年、3年と少しずつ数学との関わりを深め、自分の世界を広げていったちなつさんの1つの節目の結晶が、この「おいらの定理」のレポートだったのだなぁ〜と思うと、読んでいるこちらも感慨深いです。

 なお、※の「頂点のまわりの角度」というのは、たとえば正四面体の頂点をぐるりと1周すると、正三角形の1つの角を3つ分進むことになるので、「頂点のまわりの角度」は 60°×3=180°となります。平面では1周が360°なので、不足分が 360°−180°=180° というわけです。


2.音階のお話し(あや)

 あやさんは、ピアノ調律師になるために勉強されているそうです(おお!)。そんなあやさんの音律のレポートときけば、これは読みたくなりますよね!

 まずは鍵盤の仕組みとオクターブの話から始まり、全音と半音、音程、完全4度や長3度などの説明と続きます。そしていよいよ「音程比」です。ピタゴラスのモノコードの話から始まりますが、これ、実験しながら読むと面白いでしょうねぇ!

  

 1本の弦の駒をつけない状態の音を「ド」としたとき、それを1/2、1/3、1/4、……にしていくと音はどう変わっていくかを確認したあと、それぞれの音程に対する比が表にまとめられてあります。

 たとえば最初のドの長さを1とすると、1/2で1オクターブ高いド'、1/4でさらに1オクターブ高いド''、1/8でさらに1オクターブ高いド'''になります。また、1/3でソ'、1/5でミ'になります。これを波の数(振動数)で考えると、

  ド−1   ド'−2  ド''−4  ド'''−8 
  ソ'−3   ソ''−6   ミ'−5   ミ''−10
  シ'♭−7  レ''−9

となります。いかにも「倍音」という感じがしますね(と私は理解しているのですが)。

 では「ラ」と「シ」はどうなるんだ?ということで、「ミ」と「シ」は完全5度だから音程比が2:3になってほしい、「ソ」と「シ」は長3度だから音程比は4:5になってほしいというふうに、計算していきます。こんなふうに倍音関係を基にして、協和音になるように音階を決めていったものが「自然長音階」(または「純正律音階」)なのだそうです。

 そしてこのあとはピタゴラス音階の話に入り、最後で平均律です。平均律というのは、簡単に言うと、どの音から始まる音階(ドレミファソラシド)も、相対的な音程比がすべて同じになっているような音律のことで、なぜそういうことをするのか、平均律によってどんないいことがあるのか、ということが記されています。そっかぁ、そういうことだったんだぁ!

 ギリシャの音楽論は論理学や思想との関わりが深いし、モノコードの波波をみているとフーリエ級数のことも気になってくるし、この先、いろいろな方向に発展できそうな研究テーマですね〜!


3.何でも測定し隊!―― いずみちゃんとじろう君の三角比への旅 in Summer ――(あやか)

 マンガ仕立ての「三角比」のレポートです。シンプルな線画でテンポがよくて軽快ですごく読みやすい。

 途中で「比の値」が出てきます。これを先生役が出してくるとつまらないし、生徒役が自分で見出すとしらじらしくなるところ。で、どう展開させているかというと、見た目ごくフツーの猫でありながら実はスーパーキャットである「まぐろ」ちゃんが変換してくれるのです。スーパーキャットのマイナーチェンジがなんだか可笑しい。でも、このマイナーチェンジにこそ、「比の値」の本質があらわれているのかもしれません。みやじ先生の授業のポリシーが生徒たちの中に根付いているということか!?

(小学校の中の「比の値」について考え始めると、これまた大仕事というか根深いものがありそうなので、今回は割愛することにして)

 「何でも測定し隊!」はCDにも入っており、パソコンの画面で見ると1コマずつ映し出されるので、大きくて迫力あります。猫の「まぐろ」がじ〜んとしている背景の正五角形は、もしかしてスクリーントーンじゃなくて自家製?などと細かいところに目がいったりして。

 なお、本誌では、マンガのあとで、実際に「カクシリ器」を使って生徒さんたちが「釜石大観音」を測っている様子の写真が掲載されています。

 こういう地道で具体的な作業も怠らないんだなぁ〜。


4.遠近法で絵を描こう(かなえ)

 美術部のかなえさんの、絵本仕立ての遠近法レポートです。CDではカラーのスライドーショーが観られます。本誌のモノトーンも味わい深いですが、やはり大きな画面でカラーで見るときれいだし、とてもわかりやすいです。

 前回のマンガは軽快でしたが、こちらはゆったりと静かな気持ちで読めるファンタジーの世界。絵はファンタジーですが、ストーリーはとても日常的で、いますぐに子どもと実験(実行)できそうな内容になっています。

 かなえさんの絵本には、透明なスクリーンを使う「デューラーの仕掛け」も出てきます。これを見ると、やはり思い出すのは橋爪大三郎『はじめての構造主義』(p160)。中世から近代への転機、「視る主体」の誕生の話。構造主義はヒルベルトの形式主義の運動の中で育まれたわけですが、形式主義の重要な源泉のひとつが射影幾何学であり、射影幾何学の源泉にあたるのが遠近法であった、という系譜が書かれてあります。遠近法をヒントに生まれた射影幾何学ではあるけれど、そこで視点(主体)の差異が無視されることにより、対象の<構造>が浮かびあがるという流れになっています。

 この「遠近法」も、ここからいろいろな方向に進めそう(歴史をもどるもよし、進むもよし、美術方向もよし、数学方向もよし)な研究テーマですね〜!


5.鏡像によるヴァーチャル立体(たかし・よしひろ・まさひろ・いっぺい・しょうご)」

 万華鏡では、三角柱内部の鏡の反射を利用して、わずかな小片で平面の繰り返し模様をつくりますが、同じ原理を利用して、錐体内部の鏡の反射で、わずかな実体をもとに立体図形を作ろうというのが、この「鏡像によるヴァーチャル立体」です。鏡の反射を利用するので、対称性が関わってきます。

 まずは線対称な図形。対称軸に鏡を置くと、対称軸の片側の図形とその鏡映をあわせることにより、もとの図形が再現されます。次は、正多角形。こちらは2枚の鏡を利用します。

 では正多面体は……?ということで、研究は進んでいきます。ZomeToolで作った立体もあわせて示されています。

 このレポートを読んでいて、楽しいなぁ〜と思うのは、予想や観察や発見の経過がよくわかるところ。

 鏡2枚で正多角形ができたのだから、空間の場合はきっと3枚の鏡を使うのだろうと予想した。そしてある日、線を引いた鏡を3枚組み合わせたときに偶然、正八面体が見えた。なぜ正八面体が見えたのか考えた。また、ZomeToolで作った正八面体を観察していたら、あることに気づいた。

 さらに、研究の過程で遊んでいるときに偶然サッカーボール型の立体ができた。これは切頂二十面体である。正多面体の1つの面を反射させることで正多面体ができたのだから、頂点を切り落とした紙を入れれば切頂多面体ができるのではないか……

 というふうにして考察は進んでいくのでした。

 切頂多面体までいくことになるとは、メンバーとしても予想外のことだったようです。時間があったら他の準正多面体の考察へと進んでいたのでしょう。また、最後の感想で、「研究で出会った図形・立体はどれも美しく、かつ、途中で出てくる計算は無理数のオンパレードであった。無理数こそが美を支えていると実感した。」と書かれてあるのも面白かったです。先生への謝辞も添えて、きれいにまとめてあるなぁ!

 これまでのレポートとは違って、ひとりではなくグループによる研究発表ですが、とてもよくまとまっています。どうやって進めていったんだろう?

 どのレポートを読んでも思うのですが、研究する力のみならず、それをまとめて表現する力も感じられて、感心するというよりうらやましいです。

(つづく)


〔2018年3月29日〕
 複数に分けて書いていた記事をひとつにまとめ、整理しました。
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