TETRA’s MATH

体の「添加」で、偶然ちょっと面白かったこと

 これから何をしようとしているかというと、結城浩『数学ガール/ガロア理論』を参考書にしながら、ドゥルーズ『差異と反復』第四章のごく一部を読もうとしていいます。なんかぜいたくー。前者を手にしたおかげで後者が格段に読みやすくなっていることをすでに感じております。で、かなりネタばれになってしまいますので、『数学ガール/ガロア理論』を読む予定の方、この本をまっさらな気持ちで楽しみたい方は、これを読まずに本を読んでくださいね!

 さて、まずは体の「添加」です。添加というのは、いわゆる添加物の添加、付け加えること。『数学ガール/ガロア理論』では、第1章は「あみだくじ」を使った大変わかりやすい置換の話になっており、その次の第2章で2次方程式が出ていて、添加について考え始める流れになっています。

 ちなみに2次方程式は中学校3年生で学習することと思います。因数分解して解く方法のほか、解の公式も学んでいることでしょう。「にーえーぶんのまいなすびー……」のあれです。

 なお、中学校で出される問題は、ルートの中身が絶対に正の数になるように作られていると思います。さらに、4とか25とか81とか、何かの2乗の数になっていてくれると、平方根が整数で表せるので気持ちがいいです。このルートの中身がいわゆる「判別式」。(判別式は高校の範囲ですね)

 ほんでもって、たとえば x^2−5x+6=0 という2次方程式だったら、左辺を因数分解して(x−2)(x−3)=0 より、x=2,3と解が求まるので、整数の世界だけで話は完結するわけであり、解の公式で解こうとすると、√の中身は(−5)^2−4×1×6=1 だから、解は x=(5±√1)/2=3,2 となってくれます。

 x^2の係数が1ではなかったりして、すぐに因数分解が思いつかないような2次方程式でも、解の公式で√の中身が平方数だったら、整数にならなかったとしても分数にはなってくれます。整数も分数で表すことができるから(例:3=3/1)、言い方をかえると、√の中身が平方数だったら、解は分数で表すことができる数、つまり有理数で出てくるということになります。

 ところが、x^2−2x−4=0 を解の公式を使って解こうとすると、√の中身が(−2)^2−4×1×(−4)=20となり、√20=2√5で、√5の部分はこれ以上どうしようもないので、解は 1±√5 となり、平方根を学習しないうちはこの2次方程式は解けない、ということになります。実際は、平方根をやらないうちに2次方程式をやるということはまずないだろうと思いますが。

 そろそろここらあたりで「体」という用語を確認しておきますれば、このブログでは……って、何も書いてないじゃないか。ここはひとつミルカさんのシンプルな説明をお借りすることにして、「体とは、加減乗除が定義されている数の集合と考えればいい」ということにします。さらに、加減乗除について「閉じて」いなければなりません。たとえば整数の場合だと、2と3の間に加減乗除は定義されていても、2÷3の答えは2/3でこれは整数ではないので、整数の世界の中だけ完結せず、つまりは閉じておらず、したがって整数の集合は体にはならないということになります。有理数全体の集合は、そのなかで加減乗除が定義されているし、閉じているので、体になります。

 で、先ほどの x^2−5x+6=0 の解は2と3だから、解が有理数体に含まれていますが、x^2−2x−4=0 の解は 1±√5 なので、解が有理数体には含まれていないといえます。方程式に出てくる数値、すなわち係数は1、−2、−4で有理数なのに、答えが有理数じゃない。有理数の世界にいる人が作った問題が、有理数の世界のなかで解けない。(←私の勝手な表現)

 ところが……というか、だからというべきか、√5を仲間に入れてあげて、内山田洋とクール・ファイブじゃないけど(懐&違)「有理数全体&ルート・ファイブ」という新しい体にしてあげれば、このなかに解が含まれることになり、世界が広がって問題が解けるようになります。

 何かを加えてつくった新しい世界は、それ以前の世界とは別のものなので、区別しなくてはいけません。そこで、有理数体をQ(本では白抜き文字で示される)と表すことにして、√5を仲間に入れた体をQ(√5)で表すことにします。この体は、有理数体Qに√5を「添加」した体というわけです。そして、Q(√5)には、有理数であるところの −2 や 3/5 などのほか、√5、1+√5、2−3√5 などのように√5がからむ数も含まれることになります(有理数をp、qとして、p+q√5 で表される数たちの集合)。

 こんなふうに、何かを添加して新しくつくった体のことを「拡大体」というようです。だから、Q(√5)はQの「拡大体」。(ちなみに『数学ガール/ガロア理論』p.54の拡大体の説明のところで、中央の「結局、」のあとに「√5の要素」とあるのは「Q(√5)の要素」の誤植のようです>

 拡大したのだから、もとの有理数たちもみんな入っています。ベン図で書けば、Q(√5)はQをすっぽり包む形になります。

 ほんでもって。

 何が偶然に面白かったかというと。

 私が『数学ガール/ガロア理論』を手にするきっかけになった例の林晋さんの論文のこと。↓

「澤口昭聿・中沢新一の多様体哲学について
      ―田辺哲学テキスト生成研究の試み(二)―」
http://www.shayashi.jp/ tayotaitetugakuhihanCorrected20130204.pdf

 この論文の五二頁に次のような記述があるのです。

数学では、新概念が旧概念を拡張したとき、あたかも新概念の例で旧概念でないものだけを、新概念の例であるかのように議論することがある。佐藤や田辺はそういう議論をしたのである。

 ここは物理学のテンソルの話をしているところで、力らしいものは何も現さないテンソルも数多くあり、ベクトルもスカラーもテンソルの例なのだけれど、佐藤省三も田辺元もこういう「例外ケース」は知った上で、テンソルはベクトルを超える高次方向量だとしている、というそういう話です。なんかこれがちょっと面白かったのだ。

 ちなみに数年前から「テンソル」ときくとドキッとする私。
(ま、またあなたですか? そして、ど、どちらさまですか? という感じ)

 なお、ベクトルとスカラーについては、『数学ガール/ガロア理論』の第6章の線形空間のところで、これまた丁寧に出てきます。

(つづく)

 

〔2018年3月20日:記事を整理・修正しました〕

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