TETRA'S MATH

数学と数学教育

水道方式における系列(順序数)の教え方

 遠山啓は、数を順序数ではなく集合数から始めることをよしとしました。それはつまり、数を

   

としてとらえるのではなく、

   

としてとらえよう、ということだと思います。しかし、だからといって順序数はあつかなくてよい、ということはもちろんなくて、「数える」ということ自体は人間が考え出したすぐれた方法なのだから、そのために数の系列を教えることも大切だ、としていました。

 数の系列を教えるときにも、数珠つなぎとしての数を考えるのではなく、いち、に、さん、し、…という数詞を集合に対応させて考え、

   

 これをタイルを使って学ぶときには、「タイルを重ねる」という方法をとりました。

   

(参考文献:『新版 水道方式入門 整数編』遠山啓・銀林浩著/国土社/1971)


 なるほどね〜と思うことしきり。宮下英明先生の示されている系列とは対照的です。

 で、銀林浩著『集合の数学』によると、この集合数から順序数への移行が、圏の「関手」と関わっているらしいのです。
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「具体→抽象,抽象→具体」は遠山啓も言っている

 タイル図は具体的な操作に対応していないにおいて、
だから遠山啓は、「具体にもどる」ことはしなかった。
と書きましたが、『代数的構造[新版]』(p102)で遠山啓は次のように書いています。
 もし、このような具体化への方向を数学が内包していなかったとしたら,それは抽象の高みにのぼって雲散霧消してしまっただろう。
 抽象的構造はそれと同型な具体的な実例による表現によってはじめて生き生きと捉えられ,そしてその真の意味が了解されることが多い。(中略)
 数学者がこのような具体化もしくは表現を好むのは,人間の思考が---もっとも抽象的だと考えられている数学的思考でさえ---意外に感性的な基礎をもっていることを示している。
 言っていることは、認知心理学者の目を通して見る数教協の教師像で引用した佐伯胖氏の主張とほぼ同じだと思いました。では、なぜ、水道方式に基づいた授業は、具体と抽象をいったりきたりしているように見えないのでしょうか。
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タイル図は具体的な操作に対応していない

 というわけで、タイルのかけ算では、2×3=6は

     

と表され、これがのちのちタイル図で乗法を理解しようとする意味で示したような(小数)×(小数)のタイル図にもつながっていくのだと思います。

 したがって、佐伯胖氏の「“たてが重さ、よこが長さ”というものはなんなのだ。これはそもそもどういう具体的なものの操作に対応しているのか」()という疑問に答えるならば、このタイル図は「具体的なものの操作には対応していない」となりそうです。分離量までは対応しているように見えたけれど、連続量になると対応していないことがはっきりわかるというか。

 2本や2個や2円や2日や2回が

     

と表されたとき、それは具体の世界から半具体・半抽象の世界へととびたっており、乗法の演算を2方向のタイルで表現する段階では、完全に抽象の世界へとびたっているのではないでしょうか。また、そうでなければタイルの意味がない。タイルが「具体的なものの操作に対応している」のは、加法・減法だけだと思う。
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タイルのかけ算と、タイルの向き

 水道方式ではかけ算の「たて計算」でもタイルを使いますが、計算の途中だけタイルで表す場合もあれば、被乗数だけタイルで表す場合、被乗数も乗数もタイルで表す場合などいろいろあるようです。(このエントリのいちばん下に図を示してあります)

 なお、参考文献[*1]p47では、乗数にタイルを用いない場合と用いる場合があるが、乗数にタイルを用いると「×2位数」「×3位数」の計算を導くのに都合がよいと書いてあります。そして、もし乗数にタイルを用いるのであれば、(2位数)×(1位数)のたて計算に入るまえに、次のようなタイルのかけ算を指導することになっているようです。
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乗法の水道方式・2

 整数の乗法の一般的な形は(多位数)×(多位数)であり、これはいくつかの(多位数)×(1位数)に分解され、さらに(1位数)×(1位数)に分解することができるので、(1位数)×(1位数)が乗法の「素過程」になります。

 この(1位数)×(1位数)を「たて計算」---佐伯胖氏に関わるエントリを書きながら思ったのですが、「筆算」より「たて計算」のほうがわかりやすいですね---でも書けるようにしたあと、(2位数)×(1位数)をおさえ、(3位数)×(1位数)を学習し、ここを水源地としてあとは下りていくことになります。さらには、(3位数)×(3位数)を水源地として下りていきます。

 (多位数)×(1位数)の水源地が(3位数)×(1位数)のわけは、(3位数)×(1位数)を学ぶ段階で指導を要するポイントが出つくし、アルゴリズム(手法)が一般化され、このあとは系統的に順をおって指導しなくても計算できるようになるから、ということのようです。
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乗法の水道方式・1

 水道方式において乗法はどのような組み立てになっているのかみていきます。
 
 遠山啓は乗法を (1あたりの量)×(いくら分) で定義しました。この定義ならば、「×0」「×1」で子どもが戸惑うことがなく、また「×小数」「×分数」を「×整数」と同様に扱えるからです。遠山啓および数教協は一貫性をよしとし、演算の意味を途中から変更することは好ましくないと考えていました。
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認知心理学者の目を通して見る数教協の教師像

 面白いことに、佐伯胖や波多野誼余夫といった認知心理学者の目に映る数教協の(一部の)教師像は、数教協の本来の目的と逆方向に進んでいる姿になっているようなのです。

 たとえば、佐伯胖氏はこう書いています。
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タイル図で乗法を理解しようとする意味

 私が関わってきた教材・教育関係の仕事はほとんどが小学校高学年〜中学生対象であり、小学校低学年の教材に関わる機会はめったになかったのですが、何かの折に小学校2年生か3年生の教材をのぞいたとき、「デシリットル」と「リットル」があると小数の勉強に便利だなぁ〜としみじみ感じたことがありました。そして、なるほど実生活でほとんど使うことのない「デシリットル」を学校で学ぶのにはそういう意味があったのか、と自分で勝手に納得しました。知らなかった裏の仕組みを垣間見た気分でした。なお、本当の事情は知りません。〔2013年7月9日追記:どうもそういうことじゃない気がしてきました>

 さて、そういう「一つ下の単位」のことを考えると、分数と小数の違いのことが思い出されます。>分数と互助法・01

 10等分して新しい単位(一つ下の単位)を考えるというのは、一、十、百、千と進んできた10進構造の逆向きの理解であり()、結集が得意なゆえ10進構造の説明が得意な「タイル」は、分割も得意であり、小数も大得意です。それに加えて数教協は「小数×小数」を「量×量」でもっていきたいわけだから、線分図ではなく2次元のタイル図で表すのがミソだったのだろうと想像しています。
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佐伯胖氏は数教協の「タイル」をどう見たか・2

 「佐伯胖氏は数教協の「タイル」をどう見たか・1」でご紹介したタイルを使った授業実践例は、数教協会員である加川博道先生の学校で行われた授業です。加川先生が勤務されている学校は私立小学校で、自主編成のカリキュラムのもと行われており、文部省検定の教科書は使っていないそうです(現在どうなっているかはわかりません)。

 私がこの授業実践例を読んで最初に感じたのは、「子どもたちがこれだけ自由に自分の意見を述べられるってすごいな〜!」ということです。1年生の頃から1人1人の意見を大切にする授業環境が整えられていて、その中で育ってきた4年生の姿があらわれているのかもしれません。

 加川先生にとって先の授業は、「タイルの威力を目の当たりにした」実践例だったようですが、私には(授業そのものを見ていないとなんとも言えない部分はあるにせよ)、「タイルに人を納得させる力はさほどないらしい」ということと、「タイル“を”理解しようとする授業になっている」実践例に見えてしまうのです。

 佐伯氏は次のように分析しています。(引用ではなく要約)
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佐伯胖氏は数教協の「タイル」をどう見たか・1

 数教協の「水道方式」および「タイル」が算数教育にどのくらいの影響を与えたのか詳しく知りませんが、少なくとも小1、2年生で学ぶ計算技能についてはかなりの効果を発揮したのではないかと想像しています。

 私も10進構造の理解に「タイル」はとても有効だと思います。しかし、整数の加減はともかく、どこまでもどこまでもタイルに頼ろうとすると、「タイル“で”」計算を学ぼうとしているのか、「タイル“の”」計算を学ぼうとしているのか、だんだんわからなくなっていくのです。

 それでもタイルが使いやすいならば使えばいいと思うし、タイル“の”計算を理解するのもひとつの楽しさです。

 しかし、「タイルで教えるのがいちばんいい」というふうにタイル万能主義に陥るのはまずいと思うのです。この言葉の「タイル」のところに、他のいろいろな方法論をあてはめることができるんじゃなかろうか?
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